読書感想:ちいさな君と、こえを遠くに

 

 さて、この世の中には声優という職業があるのは既に画面の前の読者の皆様もご存じであると思うが、声優という方々は自らの声を通して、演じた世界の魅力を伝えてくれている訳である。そういう意味から、「表現者」と表すのならば、何かで伝えたい世界を表現している者は、表現する世界が違えど、同じ地平に立っていると言えるのかもしれない。

 

 

つまり何を言いたいのか、というとであるが。この作品は「表現」を巡るお話であり、「声優」という夢に向かう若き蕾たちと、夢に折れ枯れかけた花のお話なのである。

 

かつて大人気グループのボーカルを務めていた少年、奏太。しかし喉の酷使による炎症と第二次性徴により、天使と表された歌声を失い。夢破れて折れ、人生をリセットするために彼は転校し、誰も彼を知らない街で一人暮らしを始めていた。

 

「わたしに声優になるレッスンをしてください!」

 

だが、声は失われても、表現力は失われない。級友となった塔子に誘われボランティア委員会となり訪れた児童館。演じた劇の中で彼の表現力を声優と勘違いした少女、空(表紙)が彼にレッスンを依頼してくる。それは彼にとって新たな道への出会いとなるのだ。

 

そもそもプロではないので断るも、熱意に負け、自主的な練習を続ける彼女に危うさを感じ。仕方なく基礎的な部分だけを引き受け、関わることになり。熱意のある彼女を導く中、彼の前に現れるのは個人製作アニメのオーディションのお知らせ。その主催者である既知の相手、エレナの影に因縁めいたものを感じながらも。野心を抱く少女、忍や思い出を作りたいと言う小学六年生、美沙希と紫苑も指導する事になり。一気ににぎやかになる中、エレナと出会い彼女達の可能性を信じるからこその宣戦布告を叩きつけ。何か思う所のあった塔子とも一つの賭けをし。奏太は、準備を進めていく。

 

 彼の中、芽生えていくのは新たな思い。才能あふれる若き風が蘇らせるのは、一度失ったはずの情熱。彼の心の中、再び音が溢れ出す。嫌ったはずの自分の声と向き合わせる。

 

本番の空気の中、重圧に揺れる彼女達を助ける為に向き合わなかった、自身の音を解き放ち。その音に押されて、少女達も最高のパフォーマンスを発揮し。

 

「だったら置いて行かれないように足掻くよ。今の俺の全力で」

 

その果て、新たな思いが心を焦がす。かつての自分ではなく、今の自分を見てくれたからこそ。だからこそ、負けたくない。置いていかれたくはない。胸を焦がすのは、今燃え上がる新たな情熱。

 

瑞々しくて真っ直ぐな、夢の原石の魅力が眩しく、どこか心を押してくれるこの作品。爽やかな作品が読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

ちいさな君と、こえを遠くに (講談社ラノベ文庫) | ツカサ, しらたま |本 | 通販 | Amazon