さて、突然ではあるが我々の世界には「後悔先に立たず」、「後の祭り」という言葉が存在している。このような言葉が表す通り、一度吐いた言葉は飲み込めず、一度起きてしまった結果は取り返せない。故に我々は行動と言葉に注意して生きるべきであるが、どこに地雷が埋まっているか分からないものである。故に完全に避けきるのは難しいのかもしれない。
そういう意味においては、この作品の主人公は地雷を踏み過ぎている、と言っても過言ではないかもしれぬ。しかしそれは彼自身の意思ではない、不幸なボタンの掛け違えなのである。
とある高校に入学したばかりの少年、雪兎。陰キャラであると自嘲し、卑屈に振る舞う彼はとことん女運が悪かった。母親である桜花には疎まれ、姉である悠璃には嫌われ。更には中学時代に両想いである幼馴染、灯凪(表紙左)にはフラれ、その傷心中にかつての友人、汐里(表紙右)には嘘告白され。数々の女難を経て、彼の心は幾度となく傷つき。傷つくくらいならと簡単に壊れるほどに、感情がぶっ壊れてしまい不感症のようになってしまった。
「私が悪いの・・・・・・全部私が―――」
「ごめんなさいユキ! アレはそんなじゃなくて―――」
だがしかし、表紙の二人の表情を見れば何となくお分かりであろう。真実は全くの真逆。彼は誰しもに愛され、想われている。ただ、ボタンの掛け違えが続いてしまっただけ。まるで誤解と女難の神に愛されたかのように、不幸な勘違いが積み重なってしまっただけなのだ。
だからこそ、彼女達は彼の心に届けと愛を投げかけようとする。だが、もはや愛を感じられなくなった雪兎の心はノイズの壁に覆われ届かない。彼は愛を信じられずに卑屈に、ネガティブな方向に考えてしまうけれど、周りの者達はそれを違うと否定しようとするというループが繰り広げられるのだ。
入学早々痴漢に間違われたり、イベントで人助けをしたり、汐里とストバスをしたり。陰キャとして振る舞おうとするけれど、彼はどんどんと注目を集めていき、多くの人が彼の抱える事情を知っていく。その事情を知り彼の事を気にかけ救おうとするけれど、その心には届かない。それどころか彼は、灯凪があらぬ疑いをかけられた時、自分の事が傷つくのも厭わず、自身が周りから嫌悪の目を向けられるのも厭わずに、自分へと批判を向ける形で救おうとする。
「―――私は変わる。誰でもない。私が望む私に。今度は私が救ってみせる」
だからこそ、今度は自分が。もう逃げるのも言い訳も止める。決意し立ち上がる灯凪。
「―――証明させて。私の全部を貴方にあげる」
文字通り全てを脱ぎ捨て、全てを捧げようと言わんかのように。灯凪の献身と変わらぬ慈愛は、確かに雪兎の心に届く、その心に光が差し込む。その時、ようやく彼は昏き深海の果てから踏み出せた。光差す方へと歩き出したのだ。
だからこそここからがRe:start。 Starting now。今から始まるのである、彼の本当の物語が。
どこかシニカルな笑いの中に鮮烈な感情迸るラブコメがある今作品。故にこの作品は真っ直ぐに面白く、心を揺らす。だからこそこの作品、真っ直ぐにラブコメ好きな皆様にお勧めしたい次第である。
鮮烈な感情の好きな読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
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