読書感想:他校の氷姫を助けたら、お友達から始める事になりました

 

 さて、キャラクターの属性として氷、という単語が出てくるとクール寄りなキャラ、そう連想される読者様も多いかもしれないし実際それは間違ってはいないかもしれない。ではそんなクールなキャラクターの魅力というのはどの辺りなのだろうか。その答えは画面の前の読者の皆様各人の中にあるだろうなので明言は避けるとして。自分にだけ見せてくれる素顔、そんな展開が好きという読者様も結構おられるのではないだろうか。

 

 

実際私もその辺りは同感である。クールな彼女の自分にだけ見せてくれる素顔と甘々な日々を、とても美しいものだろう。この作品もまた、そんな作品なのだ。

 

ごく普通の少年、蒼太。彼が通学に通う電車に、いつも決まった駅から乗ってくる美少女。常に目つきは鋭く、表情もまるでほとんど変わらない。数々の者達が話しかけようとしてすげなく切り捨てられているのを見、別に話しかけたいとも思わず遠巻きにする中。彼女が痴漢を受けているのを目撃し、勇気を出して声をあげて。

 

「電車に乗っている間、傍に居て・・・・・・欲しいんです」

 

明けて後日、蒼太の学校で「氷姫」と呼ばれる彼女、凪(表紙)から話しかけられ依頼された事。それは男の人の視線が怖くなってしまったので、通学の間だけでも傍に居てくれないか、というもの。聞いてみれば信頼できる友人もいないらしく。まるで脅しにも聞こえる一世一代の賭けめいた懇願を受け。蒼太は彼女の「初めて」の友人になることを決める。

 

始まる、通学電車の中だけでの交流。お互いの事を話し合ったり、凪がこんな見た目で実は英語が苦手であるという話を聞いたり。彼女に勉強を教わったりする中で。はじめて出来た友達、という存在に対し距離感がバグっている凪の距離感が近すぎて。蒼太の心は少しずつかき乱される中、凪の方も、蒼太が綺麗な女の子と一緒に居るのを目撃してしまった事で、言い知れぬ感覚に襲われ。学校での友達に、恋をしているんだと言われ。自分の中での恋を自覚し、凪からの一歩は歩幅をあげる。

 

家に招いたり、お弁当を作って来たり。蒼太にだけ見せてくれる顔がどんどん増えていく中で。彼の中にも育ち始める恋心、反比例するように心中で叫ぶ、そんな事無いと否定する声。だけど嫌だ、という思いが高まり始めた中。実家が事業家な彼女の実家の海外展開、更には縁談の話を聞かされ。恋をしていた、という告白と共に涙のファーストキス、その先に離別が。

 

「もう、後悔しない。後悔させない。 ―――凪を泣かせない。絶対に」

 

そのままでいいの? 彼女の傍にいるのが自分でなくていいの? 思い出せ、氷姫の一番、彼女が唯一心を許したのは誰なのかを。 親友に荒っぽくも叱咤激励され、今こそ立ち上がる時。覚悟を決め、蒼太は凪の両親に面会し。彼女の本心と、両親を結びつけるために動く。

 

君じゃないと嫌、君じゃなきゃダメ、未だ顔も知らぬ誰かよりも、君との未来を。

 

「俺が絶対に幸せにする。他の誰かじゃない。俺が幸せにしたい。だからここに来たんだ」

 

誰か、なんて言うな。己が、と主張しろ、声高に叫べ。 覚悟と願い、それを胸に凪に手を伸ばし。自分の中の建前を越えて。凪も素直に手を伸ばし。友達、から軽やかに次の段階へと歩を進める。

 

もう迷わない、二人で。これからの未来も、最後も、次の未来も。そんな願いを胸に一番の友達、そして恋人となった二人の道は開けていくのだ。

 

砂糖を直接叩き込まれるほどに甘く。とーんと弾んで、まるで煮詰めていくかのように恋をして。 まさに悦い、言ってしまおう最高だ。お体に気を付けてコンスタントにどんどん刊行して欲しいし何なら来月にでも続刊を読みたい。正に面白さ太鼓判、ラブコメとして満点花丸なこの作品。心綺麗になるラブコメを見てみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 他校の氷姫を助けたら、お友達から始める事になりました (電撃文庫) : 皐月 陽龍, みすみ: 本