読書感想:カノジョの姉は……変わってしまった初恋の人

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は「姉キャラ」と聞いてどんなキャラの名前を連想されるであろうか。私も連想してみたが、思いっきりカルチャーギャップを感じさせる名前が出てきてしまったので、言わぬが花という事で秘しておくとして。それはともかく、人と言うのは変わっていくものである。その変化と言う物は、自分から変わっていく事だってあるし、誰か他人によって変わっていくという事もある。ではその変化は果たして、望ましい事なのか。それは自分からは分からないものなのである。

 

 

中学時代までは陸上に傾倒していた過去を持つ、初心で天然、裏表のない真面目な少年、鷗(表紙中央)。彼はある日、初心で内気、男子たちから密かな人気を集める少女の向日葵(表紙右)に告白され、両想いであったが故に、恋人関係へと自然な形で昇華する。

 

「イイ男じゃん」

 

が、しかし。この作品においてはそれは肝心ではない。寧ろここからが本番。向日葵に誘われ訪れた彼女の家、そこで再会したのは向日葵の義姉である梅雨(表紙左)。鷗の初恋の相手であり憧れの存在であった彼女は、一見すれば分からぬ程に退廃的で厭世的な方向へと変化を遂げていた。訳も分からぬままに彼女の部屋へと引っ張り込まれ、何とか引き離すことに成功し。だが、ここで鴎は一つ、彼の心根から来るミスを犯してしまっている、という事を彼はまだ気づいていない。

 

誰に対しても、純粋で真っ直ぐであるからこそ。向日葵と恋人同士として着実に絆を育む中、梅雨とも関わる事となっていく。ふとした切っ掛けから目撃した梅雨の彼氏との諍い。その光景から、彼女が恋人と上手く行っていないのではという思いが膨らんでいく。

 

「そんな理由でしていいことじゃないだろ」

 

そんな彼へと、梅雨はまるで悪女のように接していく。彼の心に無理矢理入り込むかのように近づき、弱みを握ろうとして。だが逆に、気が付けば梅雨の心に鷗という存在が入り込んでいく。荒んでいた心に、彼という存在が沁みて。気が付けば彼の事が心の中に息づいていく。

 

「もう私は、鷗が憧れだって言ってくれた、昔の私には戻れない」

 

「はい、思っています。それに、恥ずかしくもありません」

 

夢破れ、どこか自暴自棄になっていた過去を話し、突き放そうとしても。彼氏に危害を加えられそうになっている梅雨の元に駆け付け、鷗は自分が傷つくのも厭わず彼女を助け出していく。

 

「今の私に、鷗に好きになってもらえる資格は、ある?」

 

 

 彼の尽力により、一つの呪いは解けた。彼女は自分の道を歩き出す、それであればハッピーエンドでありエピローグに繋がっただろう。だが、そうはならなかった。彼の行いは新たな呪いをかけただけ。自分へと繋ぎ止めてしまっただけなのだ。

 

それは執着か、それとも親愛か。もう分からない。けれどこれだけははっきりと言えるのだろう。彼女の心を奪ってしまった彼は、いずれ破滅の結末を迎えてしまう、かもしれない。

 

鷗は梅雨の中を飛ぶか、向日葵の空を飛ぶのか。最後の光景はまだ分からない。だが、これは確かである。今巻においては、図らずしも成立した純粋で真っ直ぐな、彼の「略奪愛」。ならば次巻から始まるのだろう。彼女達の「略奪愛」が。

 

愛の檻へ堕ちていくかのような、切なく痛ましく、けれど純粋な愛が光るこの作品。純愛に溺れてみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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