読書感想:推しの認知欲しいの?←あげない

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 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は「推し」と呼ばれる存在はお持ちであろうか。お持ちでなくとも別に責められる事でもないけれど、推しがいる、という読者の皆様は是非その愛に邁進していただきたい次第である。では、「推し」がいると言う読者様は、その推しに自分自身の存在を認知してほしいだろうか。もし推しが自分の事を、ここにいると分かってくれたのならば。それはどれだけ、幸せな事なのであろうか。

 

 

「まあ、僕も最初は正座して聞くけどね」

 

謎の覆面系音楽ユニット、「たぶん、きっと、月の下」。通称「たぶつき」。そのボーカルである謎の存在、「derella」。 主人公であるごく普通の少年、春永は顔も知らぬその存在に、「ガチ恋」というべき感情を抱いていた。具体的には、部屋をグッズで埋め尽くし新曲が公開されるや否や何時間もエンドレスでリピートしてしまう程に。脇目も振らず、推しへの愛を貫く彼。

 

「発想が恐ろしいんだけど⁉」

 

 しかし、それを面白く思わぬ少女が一人。妹分的な存在で、家族同然の幼馴染、手毬(表紙)である。「derella」へのガチ恋を語る彼に何故、彼女は不満げな瞳を向けるのか。それは、彼女こそが「derella」の中の人であり。彼女もまた、長年の「ガチ恋」の感情を春永へと向けていたからである。

 

もやもやする、彼には自分だけの事を見てほしい。その思いを抱えながらも、けれども自分を褒めてくれるその思いは嬉しくて。悶々としながらも言い出せぬ手毬。

 

「春永はどうしたいの?」

 

そんな中、新しい季節の始まりに。春永は手毬を愛する彼女の親友、歌留多から自身の思いの方向性について、強く心に刺さる質問を受け。ふと、自身の思いをどうしたいのか、を考える事になる。

 

 「好き」なのは確か、でも付き合いたい、と言われるかとそういう訳ではない。辿り着いた思い、それは自分の事を認知してほしいと言うもの。手毬のアドバイスに基づきファンレターを書こうと四苦八苦する中、迫る初配信ライブ。奇しくもそれは、手毬の誕生日。

 

自分の始まり、彼の歌を聞きたかった。でもライブがあるからそれも叶わぬ。後悔を押し殺し、それでもファンに届け、そして自分に届けと言わんばかりに歌声をファンたちに、春永へと届ける手毬。

 

「いや、手毬のお誕生日祝わなきゃ、今日は終われないでしょ」

 

 ・・・忘れられたと思っていた、でも、忘れていなかった。当たり前だ。ガチ恋相手は「derella」でも、大切なのは手毬も同じ。誕生日が終わる前、待っていてくれた春永がくれた最高のプレゼント。魔法は解け、一人の女の子へと戻り。だからここからは二人の時間。幼馴染同士の時間なのである。

 

ガチ恋ガチ恋が交錯する時、ラブコメは始まる。ガチで追い込む恋心は止まらない、自分への恋を差し込もうとする恋は、温められた恋心も止められない。

 

コミカルなやり取りの中にもどかしさとこそばゆさがあるこのラブコメ、正に悦い。真っ直ぐな面白さがあるので、ラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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