読書感想:中学生の従妹と、海の見える喫茶店で。

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 スターバックスコーヒー、コメダ珈琲、星野珈琲。この日本には様々な喫茶店が存在しているが、画面の前の読者の皆様の推しな喫茶店はあられるであろうか。コメダ珈琲のような、チェーン系のお店がお好みであろうか。それとも個人経営の、店内に静かに音楽が流れているようなお店の方がお好みであろうか。

 

 

その好みは人それぞれであるので何とも言えぬが、お気に入りの喫茶店にいると落ち着くと言う読者様もおられるであろう。実際私も、喫茶店ラノベを読んでいると独特の落ち着きがあるものである。

 

 そんな喫茶店の一つ、海沿いの田舎町にある喫茶店、「アザレア」。地域に根差したこの小さな喫茶店で繰り広げられるのが今作品なのである。

 

夢に燃え、東京にある美術大学に進学し。現実に打ちのめされ自分の才能の無さに折れ。ホストのバイトから半ば逃れきれず、ずるずるとのめり込みながらくすぶり続ける青年、宗助。

 

「あたしの夢を守ってよ、宗にぃ・・・・・・!」

 

 夢破れ、まるで逃げるかのように親戚の為に訪れた海沿いの田舎町、七登町。かの町で待っていたのは、従妹である唯奈(表紙)。両親の事故死により天涯孤独となり、それでも両親の遺した喫茶店を守ろうとする健気な少女である。

 

かつて交わした約束があるからこそ、彼女から逃れるわけにはいかぬ。唯奈を助けると決め、学校が休暇である夏の間だけは手伝うと決め。看板をデザインしたり、バイトを探したり。時には自分のデザインの力を振るったり。自分にできる事で、唯奈を時に導き時に額を突き合わせて考えながら。店を守る為に、力を振るう宗助。

 

 だがしかし、この町で過ごすという事はどういう事か。それは向き合わなければいけぬものがあるという事。そしてそれは、宗助だけではないのである。

 

この町に残った旧友達の今、比較してしまう自分の今。向き合わなければいけぬ、かつて裏切ってしまった幼馴染である沙夜。彼女により向き合わされるのは、永遠に失われてしまった初恋。自分の夢、熱。その原点となった「彼女」への思い。

 

それは唯奈も同じである。かつて宗助の助けを借り乗り越え、今まさに開花させていた水泳の才能。喫茶店を守る為に捨てた道への未練と、彼女もまた向き合っていく。

 

「中途半端じゃダメか?」

 

 己の思いと向き合い、見つけ出す新しい思い。いつも最後の一線を踏み込まなかった自分が見つけた、叶えたい、叶えてほしい願い。二兎を追う者は一兎をも得ず、否、二兎を追うなら二兎とも得よ。その願いを選び、唯奈を応援する事を選び。宗助は夏を続ける事を選ぶ。

 

それは纏わりついていた初恋の枷が砕けた証。そして今、新たに響く恋の音。例え報われずとも、と芽生えた新しい色。

 

この作品はファンタジーではない。どこまでいっても現実だし、何もかも叶える魔法なんてありはしない。

 

しかし、それでも。この作品には確かな甘さと温かさが溢れている。故に私はこう言いたい。この作品は、ツカサ先生の新境地であると。

 

夏の切ない物語を読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。