読書感想:「一緒に寝たいんですよね、せんぱい?」と甘くささやかれて今夜も眠れない

 

 睡眠、それは体を休めリセットするために必要な事であり、体にとって重要な事であると言うのは画面の前の読者の皆様もご存じであろう。だが、寝るのが怖い、という時もあるかもしれない。私とて、明日何かが故障したらどうしよう、とか気になってしまうと寝れない時だってある。けれど人は、寝ないといけないのである。

 

 

しかし寝れない人もいる、それこそ「不眠症」と呼ばれるような。この作品はそんな病を抱える子供達のラブコメなのである。

 

「先輩のこと、おちょくり倒すのが楽し―――けほん。おちょくり倒すのが楽しいので」

 

ちっぽけな田舎町、比辻野市。元々は都会染みていた町が廃れた何もない町。かの町で暮らす少年、獏也。彼は半年ほど前に起きたとある経験から不眠症となり、様々な方法を試しても中々寝れず。気分転換の為に夜の街をさまよう中で出会った、後輩少女の君鳥(表紙)に唐突に不眠症を直す手伝いを申し出られる。

 

訳も分からぬまま、彼女の一人暮らしの家に連れ込まれ。まずは添い寝を試したり、リラックスの為に夜の街を散歩したり。耳かきをされたり。小悪魔ちっくな君鳥におちょくられ揶揄われながらも。己が不眠症となった原因を見つめ直す獏也は、その原因である一匹狼な同級生、美久に対しもう一度告白する、という方向性を見出し。君鳥の手助けを得、緻密な作戦を練って。フラれると分かっていながらももう一度告白し、予定養和のように玉砕する事で不眠症を克服する。

 

「だから、今度はオレがキミを助ける番だ」

 

その先、君鳥との時間に名残惜しさを感じた獏也が知るのは学校での彼女の姿と、彼女もまた不眠症であったと言う真実。その真実を知り、今度は自分が彼女を助けたいと願い。君鳥がしてくれたことを今度は自分が返したい、と彼女を振り回していく。

 

「オレと一緒に眠ろう」

 

 その中で知る、君鳥の不眠症の真実。自分のような些細な原因ではなく、もっと大変な原因であると言うもの。それでも彼は助けたいと願う、理想論や感情論なんて通用しない、ならば腹をくくるしかない。覚悟を決め、付き合う事を決め彼は手を伸ばす。逃げ続ける彼女に寄り添うべく、隣に居たいと心から伝える。

 

それこそは君鳥にとって必要であった事。誰も味方がおらず逃げ続けていた彼女に彼だけが寄り添っていた。最も信用できるものを得、彼女もまた眠りに誘われていくのである。

 

一緒に寝る、独特の関係性が一種の尊さをもっており、ささやかな甘さを醸し出しているこの作品。一種独特な甘さを楽しんでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

「一緒に寝たいんですよね、せんぱい?」と甘くささやかれて今夜も眠れない (ファンタジア文庫) | ヰ森 奇恋, むにんしき |本 | 通販 | Amazon