読書感想:陽キャになった俺の青春至上主義

 

 この世界には「陽キャ」と「陰キャ」という括りが存在しているが、画面の前の読者の皆様はご存じであろうか。今の時代のように陽キャ側から青春を描いた作品も、陽キャ陰キャがひょんな事から関わり始まる作品もかつては珍しいものだったという事を。そのような作品が増えてきたのも、今のご時世がそのようなものに変わってきた、という事なのであろう。

 

 

と、まぁそんな真面目な前置きはさておき。この作品はつまり、元陰キャである主人公が陰キャなヒロイン達に振り回されていくコメディなのである。

 

元々は陰キャ、しかし意を決して高校デビューし、陽キャ側にジョブチェンジする事に成功した少年、橋汰。オタク以前に優しいギャル、夏絵良や某リトバスの筋肉並みにアホな友人、徒然と共に何でもないしかし充実した日常を過ごす中。彼はある日、クラスの陰キャである遊々(表紙)の衝撃的な場面を目撃する。

 

鮭とば、付いてるぜ」

 

 それは彼女の髪に大人の珍味である鮭とばが付着している、というどこぞの芋けんぴがついていた少女漫画もびっくりな場面。陽キャらしく助け舟を出すも、それが彼女の琴線に触れたのか彼女がストーカーと化してしまい。やんわりと趣味ではないと伝えた翌日、彼女は自分らしいギャル像のためイメチェンを果たし。橋汰のグループにしれっと入り込んできたのである。

 

何とはなしに受け入れた事で、橋汰は更なる陰キャと関わる事になっていく。遊々の友人としての縁で、触れるもの皆傷つける小動物系陰キャ、水乃と関わり結果的に友人となったり。

 

更には担任である小森先生に依頼され、クラスのおどおどした男子である龍虎と接する事になり。彼のひょんな一言で龍虎はイメチェンを果たし、メスガキ系男の娘という新たなジャンルを開拓し、友人に加わって。

 

気づけば友人グループが大きくなる中、ある時は皆でおでかけしたり。またある時は、橋汰の家で遊ぶはずが何故か皆が続々と集まり、最後にはお泊り会に発展したりして。

 

それもまた、愉しい時間。陰も陽も関係ない、陽ばかりを集めても味わえない時間。だがその中で遊々に、過去に絡んでいた女子がまた絡み始め、中々変えられぬ内面に彼女は傷つき、橋汰もまた対応を間違えて傷つけてしまう。

 

陽であるというのなら、そもそも関わらなければ、かもしれぬ。だがそれは彼の望むところではない。彼の主義に反するし、そもそももう友達である遊々には笑っていて欲しい。ならばどうするべきか。その答えは単純。ヒーローらしく、ぶっ壊してしまえばいい。

 

「自由に生きようや、遊々」

 

そう、しがらみも枠組みも馬鹿らしい。ならば、単純だ。例え共感性羞恥で周りを殺すことになっても。自分も気付かぬ間に縛られていた枠組みの檻をぶっ壊し。彼の主義の先、望んでいた姿に到達するのである。

 

この作品、正に個性の爆発である。恋愛脳系ストーカーからメスガキ系男の娘、更には生徒の前でフランスパンを貪る真面目系クズの教師まで。だがそんな個性が一つの舞台の上で纏まり、笑いの中に爽快感を通している。はっきり言ってしまおう。この作品はまさに、持崎湯葉先生にしか書けない。先生だからこそ書ける、その個性が爆発した温くないまでに盛り込まれた青春を本気で送っている、だからこそこんなにも面白いのである。

 

心から笑って元気になりたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

陽キャになった俺の青春至上主義 (GA文庫) | 持崎湯葉, にゅむ |本 | 通販 | Amazon