読書感想:初恋のお姉さんを今度養うことになりまして

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 さて、今の世の中には専業主婦、もとい専業主夫という言葉が存在する。女が家を守り、男が外で働くと言う時代はもう古いと言えよう。そんな昨今の情勢を反映してか、最近のラノベにおいては「家事等の生活能力が高い男子主人公」という人物像も段々と見かけられるようになってきた気がするのは、私だけであろうか。

 

 

ヒロイン側がお世話する、という例は多種あれど、主人公側が世話をする、という例は中々に見かけぬと言っても良いかもしれぬ、そんな主人公で描かれるのが今作品である。

 

 では、お世話されるヒロインとはどんな人物像かと言うと。半引きこもりの駄目ニート、そんなダメダメな年上ヒロインこそがこの作品のヒロインである千鶴(表紙)である。

 

家事スキルの高い主人公、彰の初恋の相手であり、小学生の頃告白しようとしたものの引っ越しのせいで別れてしまい。しかし高校入学と親の転勤を切っ掛けに、彼女の家に預けられる事になり。家に到着早々、トイレでばったりという衝撃的な再会を果たした彼女。しかし、かつて高校生作家として華々しくデビューした彼女は、現実の壁にぶち当たりすっかり心が折れてしまっていたのである。

 

「なら、俺が手伝います」

 

「するよ。チヅ姉のためなら何でもする」

 

 そんな状況を見て、彰の中に芽生えた恩返しをしたいと言う思い。その思いのままに、保護者である叔母を説得し。無事、千鶴のお世話係に就任した彰は、もはや介護かと言わんばかりに甘やかす、至れり尽くせりのお世話を始めていくのだ。

 

耳かきから爪切り、歯磨きにフェイスパック。更には料理に掃除まで。もはやダメ人間製造するだけでは、とツッコミたくなるような彼のお世話。

 

しかし、ただお世話するだけではなく。折れた彼女の心に寄り添い、叱咤するのではなく、ただ寄り添い回復を促していく。彰、及び千鶴自身の妹である舞の後押し、そして新たな作品を書くためのシチュエーション再現という手伝いの中、徐々に千鶴は前を見ていく。もう一度、と心を奮い立たせていく。

 

「―――けど、チヅ姉はずっと小説を書きたかったんじゃない?」

 

彰の言葉でもう一度見つけた自分の思い。また小説を書きたい、もう一度書きたいと言う自分だけの願い。

 

「彰君がずっと一緒にいてくれたら、ハッピーエンドも早く書けそう」

 

ずっと側に、そんな思いを向けてくれる彼がいる。だからきっと、いつか幸福な結末も描ける、のかもしれない。

 

往年のラノベのノリ的なラッキースケベの大風の中に、心温まる甘やかしが展開されているこの作品。

 

心をほっと温めたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

初恋のお姉さんを今度養うことになりまして (講談社ラノベ文庫) | なめこ印, 小森 くづゆ |本 | 通販 | Amazon