前巻感想はこちら↓
読書感想:失恋後、険悪だった幼なじみが砂糖菓子みたいに甘い ~ビターのちシュガー~ - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、前巻の感想で私は、光に囚われる主人公、という話をした覚えがある。あまりにも光は強すぎた、亡くした光は。だけど、歩き出さなきゃいけない。それこそが彼女の願いであったのだから。けれど、歩き出すのに尻込みしてしまう。そんなもどかしい距離感が描かれるのが今巻なのである。
では、そのもどかしさを乗り越えていくのは誰か。光に未だ囚われたままの悠か。否、彼だけではない。この作品にはヒロインであり、もう一人の主人公がいる。そう、皆様もご存じであろう。この作品のヒロインである心愛である。
「まあ、いつまでも心愛の好意に甘えてばかりじゃ駄目だもんな」
季節は春を越え夏になろうかという頃。体育祭も迫り、夏休みも迫る中。悠は少しずつ、前を向こうとしていた。それこそが誠実であると信じ、先輩の為、心愛の為。心の中の気持ちに気付かぬまま、彼は前を向こうとしていた。
ずっと側にいてくれた、立ち直るまで支えてくれた。けれど、再生を遂げつつある悠の心の中には未だ空虚が揺蕩い。必死に悠の心を救おうと手を伸ばす心愛の手は未だ届かず。どこか宙ぶらりんな、もどかしい関係を続ける二人。
そんなもどかしい関係に波紋を投げかける石が一つ。その名は玲香。亡くなった怜子によく似た存在であり、悠に兄の面影を見出した女の子である。
七夕の風香る中で出会い、実は身体が弱くてなかなか登校出来ていなかった後輩だという事を知り。
「あたしじゃ、その先輩の代わりになれませんか?」
更には、玲香の何気ない言葉に心揺らされ。悠は否応なく、自分の心の中の誠実へと向かい合わされていく。
忘れる事は、本当に出来るのか。忘れぬままに、心愛の恋を受け入れてしまっては、彼女を代用品とする事にならないか。
だからこそ、考えた末に悠は心愛を引き離そうとする。彼女を泣かせると言う悪を背負ってでも、彼女の為、と言って彼女を振る。
心愛を利用して、先輩を忘れようとする。それは彼女に対し卑怯で失礼だから。彼女を利用したくはないから、自分に好かれる価値なんてないから。だが、悠はまだ知らなかった。心愛という少女の想いがどこまで重くて強くて深いのかを。
『んで、ここっちはどうしたいの?』
友の言葉で己を見つめ。心愛はもう一度、悠を理解しようと、彼の心に手を伸ばすかのように星に手を伸ばす。彼の事は詳しい、という考えを捨ててもう一度、見落としたものを拾う為に。
「だから誤魔化さないでください! 私は悠に詳しいんです!」
「迷惑でなにがいけないんですか!」
そして、夏休みが始まった時。あの日の思い出の公園、苦い思い出の残る木。高所恐怖症の自分を𠮟咤し、心愛は自身の命をさらけ出し天秤にかけ、悠へと叫ぶ。もう後悔なんてしたくない。悠の為じゃない、自分の為に悠を幸せにしたいと。
自らの命を賭けた、あまりにも重い心愛の告白。だが、その言葉は確かに悠の心へと届いていた。その献身は、その愛は。確かに彼の背を押し、彼の心に恋の感情を燃え上がらせていたのだ。
「ありがとうございました、先輩」
そして悠は心愛の愛を受け入れ。夢の中の銀河を往く列車の中、再び邂逅した先輩に背を押され、確かに別れを告げて歩き出す。
「一緒に、せーので行きましょう、悠。じゃあ、行きますよ」
「「せーの」」
死した怜子は、静止した時間を生きるが故に穏やかに。そして静止した時間を、世界を越え歩き出す悠と心愛はひたむきに。全部を背負って、そして二人で二人の未来を作っていくために歩き出していく。
コメディではない、ロマンスだ。自分勝手で重たいけれど、誰かを愛するが故の想いだ。正に恋愛の根源、その原始的な部分の甘さで味付けされている。故に、思わず感嘆のため息が出てしまう程、この作品は深くて濃厚な甘さを持っているのである。
ロマンス的ラブが好きな読者様、前巻を楽しまれた読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
失恋後、険悪だった幼なじみが砂糖菓子みたいに甘い2 ~七夕のち幻影~ (講談社ラノベ文庫) | 七烏未 奏, うなさか |本 | 通販 | Amazon