さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様に一つお聞きしてみよう。皆様は、例えば自身の素質を誰かに指導で伸ばしてもらうとするならどんな指導を受けたいだろうか。スパルタ指導でビシバシと伸ばしてもらいたいだろうか。飴と鞭のメリハリをつけて指導されたいだろうか。それとも、褒めて伸ばされたいであろうか。
この作品の、教官ポジションである青年、エルロス(表紙左)はどちらであろうか。どちらかと言えば、スパルタな方と言えるかもしれない。全く以て容赦ない、と言っても良いかもしれない。
しかし、指導の中で見えてくるものが確かに一つ。それは彼が生徒達自身を、それぞれ一人ずつ、生徒自身も知らぬ底まで見てくれて。口は悪いし厳しいけれど、きちんと見守ってくれているという事である。
魔王が人に害を為すこの異世界、勇者達と共に魔王に挑みながらも、只一人、勇者達の血に濡れ帰ってきたことで、「魔王に心を奪われた賢者」という裏切り者の汚名を着せられ。それでも尚、四年の間に魔術師の卵を育てる名門、「王立魔術学院」の教官を務める彼。
「魔術師としてふさわしくない者には退学勧告を下す」
そんな彼は、入学仕立ての一年生たちの中、見所が無い者には容赦なく退学勧告を下す冷酷無比なる「魔王教官」として名を馳せる。しかしそんな彼は、一部の生徒達から確かな尊敬と信奉を集める。それは何故か。
何故なら、彼はきちんと自分達を見てくれているから。指導は厳しいけれど、それでも確実に生き延びるための力を教えてくれるから。不器用で厳しいけれど、それでも確かな愛があるから。
そんな彼の厳しき愛に触れ、生徒達は成長していく。
とある事情から、最初の試練の時から魔術が使えぬ少女、ソフィアーネ(表紙右)を始めとし。彼の厳しきしごきに、それでも振り落とされぬように切磋琢磨し絆を深め、ついていく。
ある者は祖国を救う為、ある者は家族を救う為。それぞれに事情を抱えた生徒達。そんな彼等にエルロスは適宜助言をし、時に厳しくも褒め。慈悲の退学届を渡したり、少しだけ便宜を図って送りだしたり。真なる魔術師へと育てていく。
だが、彼は色々な意味で冷酷無比なる「魔王」である。彼は不正を働く者には容赦をしない。あらゆる手を使って燻り出し、きっちりと退学処分を加え。
「五人の魔王を倒す役目は、俺が背負うと決めたのです」
そして彼は、自らを餌に時を待ち、釣り上げた獲物に復讐の魔術を向ける。愛する仲間達を殺した魔王達を。忌むべき名を背負ったとしても、それでも。今度こそ殺す為に。
重厚で骨太、真っ直ぐに王道。そんな熱さと面白さのあるファンタジーであるこの作品。
王道のファンタジーが好きな読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。