読書感想:ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました5

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 さて、前巻の戦いで初めての怒り、という感情を手に入れ大切なものを護る事は出来れど、苦い後味を噛みしめる事となったこの作品の主人公、ジード。そんな彼について、ここで一度客観的に振り返ってみてもらいたい事が一つある。それは今、彼がどう見られているか、という事である。

 

 

帝国やギルド、更にはシーラやクエナ、ユイといった仲間達。彼の真の実力を知る者は確かに存在する。少しずつ、増えてもいる。しかし、それはあくまで少数派に過ぎない。そして大多数の人類から見れば。彼は「勇者の称号を辞退した一般人」としか見られなくても仕方がない。

 

 そして、「勇者」という称号を辞退した、という事は責任の放棄、戦いからの逃避とみられても仕方のない事かもしれない。臆病ともいえる彼を許せぬとしたら、それはきっと「強さ」を最も尊ぶ者達であろう。

 

そんな者達と言えば誰か。そう、「獣人」達である。そんな獣人達の住まう、獣人族領へと運悪く、盗み出された聖剣は渡ってしまったのである。

 

シーラといったん別れ、クエナと共に潜入した獣人族領。そこで出会った、長であり最強の戦士、オイトマは告げる。自分が手に入れた聖剣、返してほしくば「次代の最高戦士」を見定める「大祭」において、我が娘でありSランク冒険者でもあるロニィ(表紙中央)を優勝させてみせよ、と。

 

郷に入っては郷に従え、拒絶されながらも諦めず接し、何とかロニィに近づき。そんな中、ジードは獣人族領に蔓延る闇へと触れていく事となる。

 

ロニィが秘めた夢、次代の最高戦士を目指す獅子族の若き戦士、ツヴィスが秘めた事情。そしてオイトマの不器用だけれど、それでも真っ直ぐな次代への愛。

 

「・・・・・・依頼してくれ」

 

 それを壊そうとする者達がいる。「大祭」を穢そうとする者達が非道な策を巡らせている。ならば、どうすればいいのか。部外者であるジード達には何も出来ないのか。否、そんな事は無い。彼等は冒険者であるのだから。依頼の元、大義名分を得られるのである。

 

しかし、そんなジードへと彼に降されたオイトマはある種の核心と共に、まるで予言であるかのように告げる。近いうちに、ジードは殺される。彼を疎む者達の手により。その手は、案外彼の傍にあるのかもしれず。そしてこの世界は、誰かの手により操られているのかもしれない、と。

 

一体何が起きようとしているのか。本当にジードを殺しうる存在なんて現れるのか。

 

前巻から少しずつシリアスみが増していく中、独特の爽快感が更に高まる今巻。

 

シリーズファンの皆様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。