さて、前巻の戦いで初めての怒り、という感情を手に入れ大切なものを護る事は出来れど、苦い後味を噛みしめる事となったこの作品の主人公、ジード。そんな彼について、ここで一度客観的に振り返ってみてもらいたい事が一つある。それは今、彼がどう見られているか、という事である。
帝国やギルド、更にはシーラやクエナ、ユイといった仲間達。彼の真の実力を知る者は確かに存在する。少しずつ、増えてもいる。しかし、それはあくまで少数派に過ぎない。そして大多数の人類から見れば。彼は「勇者の称号を辞退した一般人」としか見られなくても仕方がない。
そして、「勇者」という称号を辞退した、という事は責任の放棄、戦いからの逃避とみられても仕方のない事かもしれない。臆病ともいえる彼を許せぬとしたら、それはきっと「強さ」を最も尊ぶ者達であろう。
そんな者達と言えば誰か。そう、「獣人」達である。そんな獣人達の住まう、獣人族領へと運悪く、盗み出された聖剣は渡ってしまったのである。
シーラといったん別れ、クエナと共に潜入した獣人族領。そこで出会った、長であり最強の戦士、オイトマは告げる。自分が手に入れた聖剣、返してほしくば「次代の最高戦士」を見定める「大祭」において、我が娘でありSランク冒険者でもあるロニィ(表紙中央)を優勝させてみせよ、と。
郷に入っては郷に従え、拒絶されながらも諦めず接し、何とかロニィに近づき。そんな中、ジードは獣人族領に蔓延る闇へと触れていく事となる。
ロニィが秘めた夢、次代の最高戦士を目指す獅子族の若き戦士、ツヴィスが秘めた事情。そしてオイトマの不器用だけれど、それでも真っ直ぐな次代への愛。
「・・・・・・依頼してくれ」
それを壊そうとする者達がいる。「大祭」を穢そうとする者達が非道な策を巡らせている。ならば、どうすればいいのか。部外者であるジード達には何も出来ないのか。否、そんな事は無い。彼等は冒険者であるのだから。依頼の元、大義名分を得られるのである。
しかし、そんなジードへと彼に降されたオイトマはある種の核心と共に、まるで予言であるかのように告げる。近いうちに、ジードは殺される。彼を疎む者達の手により。その手は、案外彼の傍にあるのかもしれず。そしてこの世界は、誰かの手により操られているのかもしれない、と。
一体何が起きようとしているのか。本当にジードを殺しうる存在なんて現れるのか。
前巻から少しずつシリアスみが増していく中、独特の爽快感が更に高まる今巻。
シリーズファンの皆様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。