読書感想:幼なじみが妹だった景山北斗の、哀と愛。

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シリーズ前作の感想はこちら↓

読書感想:元カノが転校してきて気まずい小暮理知の、罠と恋。 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、シリーズ前作とダッシュエックス文庫の創刊の一冊となったシリーズ始まりの一冊を読んだ身として、一言ボヤいてみたい。この学校、恋愛的な磁場がとんでもなく歪んでやしないか、と。親友の彼女だったり、元カノだったり。物凄く因果の絡まった恋愛が繰り広げられてきたこのシリーズ。しかし、今巻は今までで一番ハードであるかもしれない。寧ろ私はこう言いたい。野村美月先生の今まで生み出されてきた主人公とヒロインのカップルの中で、もっとも人生ハードモードしやすぎないか、と。

 

 

小さなころ、児童館で出会って。ちょっとした事件で守る事になって。それ以来続いてきた関係性。いわば幼馴染。普通の高校生、北斗の幼馴染、春(表紙)。相思相愛、まさにおしどりカップル。ここまでの状況でそのままラブコメするのなら、真っ直ぐな王道幼馴染ものとなっていたであろうシチュエーション。

 

 しかし、北斗は春を振り払うかのように、シリーズでお馴染みの変わり者の先輩、沙音子と恋人関係となっていた。それは何故か。それは、彼だけが二人の間の関係の真実を知っていたから。その真実とは何か。

 

それは、二人は生き別れの双子の兄妹であるという事。タイトルでも書かれている通りそういう事である。いわばラブコメが始まる前から終わっている、それどころか始められない関係である。

 

「好きな人といっしょにいるのが・・・・・・幸せ、だよね」

 

涙を浮かべ手を伸ばしてくる春を振り切るために沙音子だけを見つめ。春もまた、こちらもシリーズ皆勤賞の恋多き男子、遥平と付き合いだし。それぞれの幸せを歩き出した、筈だった。

 

 なのに、頭から離れない。目の前の人を見ている筈なのに、どうしても春の事を、北斗の事を考えてしまう。振り切ろうとすればするほど、深みに堕ちていく。愛と言う名の深みへと。

 

「・・・・・・ほくちゃん、いいんだよ」

 

脇目も振らず追いかけて、兄妹だと知っていてもそれでもと声を上げ。ただ最愛だけを手に入れようと手を伸ばす春。健気に、いっそしたたかに伸ばされるその手。

 

「ああ、そうだ。妹となんて異常だ。気持ちが悪い」

 

その手を振り払う、己の心を押し隠して。押し潰してこようとする罪悪感から目を背けて、それが彼女の為だと言い聞かせて。

 

「いっしょにいちゃいけないって、わかってるのに」

 

だけど、どうしても無理だった。幼き日の彼女も、今の彼女も愛しているから。どうしても彼女以外は嫌だ、と心が叫んでいるから。

 

「ほくちゃん・・・・・・わたしと、死んで」

 

逃れられぬ愛の鎖に絡めとられ、お互いを縛り付けて。絶望にマヒした頭で、終わりを選ぼうとして。

 

だが、それを沙音子と遥平が阻む。生きろ、頼れと沙音子が叫ぶ。

 

生き延びてしまった先、どうしようもなく訪れる離別。それを受け入れる、受け入れお互いの幸せのために歩き出す。

 

「ほくちゃん、わたし、幸せだよ」

 

 その筈だった。だけど、それを選べなかった。それは何故か。何故なら二人とも、もう選んでいたから。例えどんな選択肢をとっても結ばれる、と言わんばかりに。まるで呪いのように、祝福のように。二人の心は結ばれていたのだから。

 

別離から季節は巡り、幾度目かの春が巡り。あの日の始まりの場所、星座が再び結ばれるかのように。二人だけの秘密の約束は確かに果たされる。

 

妹でも、兄でも、もう関係なくて。ただ、愛だけがあった。

 

一体誰が悪いのか、そう聞かれても誰も悪くないとしか言えない。ただ、致命的にボタンを掛け違えただけ、因果の神様のとびっきりの悪戯にあっただけ。

 

それでも、と。最大公約数の幸せなんて知った事かと選ばれた選択肢。それを咎めるのは誰に出来るのか。きっと誰にもできない筈だ。

 

身も心も切り裂かれるような恋愛劇を楽しみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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