読書感想:変人のサラダボウル

f:id:yuukimasiro:20211014222534j:plain

 

 さて、サラダボウルというものを画面の前の読者の皆様はご存じであろうか。様々な彩の野菜が並び立ち共存している、見栄え鮮やかなものであるもの。では一体、そこに変人というものが絡むとどうなるのか? 答えはとっても簡単。この作品を見ていただければ全てがわかる。変人達の個性が殺し合わず、並立共存しているからこそこの作品は生まれたのたのである。

 

 

信長の 住まいし頃が 全盛期。 そう一句詠まれてしまう程に何もない、パッとしない。何か特別なものがあるのかと聞かれて何もない。この作品においてはそう描かれている岐阜県岐阜市。幾多の変人が存在するまさにごった煮のようなそんな街の片隅、売れない探偵事務所を営む男、惣助(表紙右)。

 

「そなたもう詰んどるのでは?」

 

 そんな彼がある日、いつもの仕事の一環での尾行中。まるで、親方、空から女の子が、と言わんばかりに彼の上に転移してきた少女が一人。彼女の名前はサラ(表紙左)。異世界の帝国の皇女であり、いまや亡国の姫様である。

 

強大なる魔法の力を持つ彼女を放り出す訳にもいかず、結果的に居候を許す形となり。更には彼女の提案により、彼女を助手として雇う事になり。

 

その裏、サラを追い異世界から転移してきた護衛の騎士、リヴィア。サラとはぐれ行き場もない彼女は、結果的にホームレスに身をやつす事になり。

 

 変人達の中に紛れ込んだ、異世界人と言う名の二人の異分子。しかし、彼女達は逞しかった。そして強かった。あっという間にこの世界の常識を身に着け、順応しつつあった彼女達は、様々な場所で様々な形で。それぞれ変人達と関わり、物語を生み出していくのである。

 

スカウトされたかと思えば、セクキャバ嬢としてデビューさせられたリヴィアは、先輩である源氏名「プリケツ」と出逢ったかと思えば、ホームレスの師匠的存在だった鈴木を立ち直らせ、新興宗教の教主の少女、望愛にひょんな事から崇められ。

 

惣助の助手として働き、人々の面倒で黒い営みを見ていく事となるサラは、惣助の顔なじみの弁護士、ブレンダと出会い、いじめられた中学生、友奈と出会う。

 

 それぞれの場所で、それぞれの出会いから騒動を巻き起こしたり。そんな中で成長しこの世界に馴染んでいく。

 

「登場人物全員たわけか」

 

そう言われるとそうかもしれない。たわけではないかもしれないが、変人である。

 

「妾はこの世界で楽しく生きていくぞよ」

 

そんな変人達が異世界人を筆頭に、時に影響を与え合いながら混ざり合う事無く己の物語を生きていく。

 

正にスラップスティック、変わり者たちの狂騒曲であり誰もが自身の物語の主人公の群像喜劇。

 

何処にもない唯一無二であり、何処へ進むかの方向性すらも五里霧中な暗中模索。

 

だが、だからこそ面白い。何も考えず、原初的な面白さと言うものを楽しめるのがこの作品である。

 

何処にもない物語を読んでみたい読者様、今時の風潮に飽きた読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

変人のサラダボウル (ガガガ文庫 ひ 4-15) | 平坂 読, カントク |本 | 通販 | Amazon