読書感想:わたしを愛してもらえれば、傑作なんてすぐなんですけど!?

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 さて、画面の前の読者の皆様は悪魔との契約というものはご存じであろうか。何かと引き換えに、大きなる力を得るものが悪魔との契約と言うものである。それは一瞬だけなら大きなものを得られるかもしれない。しかし、安心してはいけない。悪魔との契約というものは往々にしてバッドエンドにしかならぬものであり、否が応でも大きな代償を求められるものであるのだから。

 

 

一体なぜ今回はこんな前振りになったのかと言うと、この作品のヒロインがそんな存在だからである。ただし彼女は悪魔ではない、どちらかと言えば妖精の類である。

 

偉大なる大作家の父親を持ち、自身も高校生ながらにして作家としてデビューしている少年、進太朗。だがしかし、父親とは真逆の、荒唐無稽でも必ずハッピーエンドに持ち込む彼の作風は世の中に受け入れられる事は無く。三作品続けて単巻打ち切りのがけっぷちの鬱き目に陥っていた。

 

 そんな彼はある日、環境を変える為に父親の遺した家に住み始め。その最中、一人の女性と出会う。彼女の名前はりやな(表紙)。リャナンシーの類である妖精の一種であり、傑作への霊感を与えてくれる良き妖精である。

 

まるで父親に与えたように、進太朗にも傑作への霊感を与えるりやな。

 

「でもあれ、バッドエンドだろ」

 

が、しかし。進太朗はまるで断ち切る様に強引にその霊感を否定し彼女を拒もうとする。

 

その心にあったのは父親への反骨心。既に死しているから語り合う事は出来ないけれど、それでも気に入らない。自分を二世としてしかみない世間も、何も明かしてくれなかった父親も。

 

まるで父親にしたように、霊感を与えようとあの手この手でぐいぐいと迫るりやなを拒むある日。ふとした切っ掛けから、進太朗はりやなに小説の書き方を指導する事になり、同じ物書きとしての土俵に立ち勝負をする事になる。

 

 それこそが物語の起承転結の承にして転。同じ土俵に立ち、父親とは違う向き合い方をする事で。りやなと向き合いその心に触れ。そして彼女が知る父親の話を聞く事で、今まで知らなかった父親の事を見つめていく。

 

今まで知らなかった、知ろうともしなかった。父親が考えていた事を何も。自分の事も、子供の事も、そしてりやなの事も。不器用に過ぎるけれど確かに愛していた、愛してくれていた。

 

「自分が欲しいものは、自分で創ればいいんだ。前例がなかろうと、無茶苦茶手間がかかろうと、そんなの、できないの理由にならない」

 

「否定しれくれて、ありがとう。おかげで僕は、今の自分を愛せるよ」

 

 だからこそ今気づけた。自分がどうすれば良かったのか。今まで気が付かぬ間に自分で囚われていた、小さな檻の壊し方を。

 

ぶつかり合って競い合い。彼等だけの形で一歩踏み出し。ようやくスタートラインに立って歩き出す。

 

そんな創作に関する形のない熱さが溢れているこの作品。

 

熱い創作の面白さが読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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