読書感想:隣の部屋のダ天使に、隠しごとは通じない。

 

 

 さて、昨今の世界には「親ガチャ」なる言葉があるらしいが画面の前の読者の皆様はご存じであろうか。人間、生まれる前に最初のガチャを引き、その結果によって人生が変わる、という事を言うようなものであるが、子供は親を選べないと言うのは確かにその通りと言える。 親がたとえどんな悪人であっても、一度子供として生まれてしまったのなら、縁はそう簡単には切れぬ。ならばやはり、親ガチャという言葉も成立するのかもしれない。

 

 

そういう意味においてはこの作品の主人公、春継の親は、作品開始時から見れば大ハズレと言えるのかもしれない。なんせ彼の父親は稀代の大犯罪者、と言えるのだから。

 

三年前、人類を襲った未知のウイルス。あっという間に人類の半分は死に絶え、残った人達はそれぞれ孤立を深め。そんなウイルスを、所属していた細菌研究所から故意に流出させたと言う事で父親は捕まり。その息子として春継は無遠慮なデジタルタトゥーに晒され、世界中から嫌われた少年として日々嫌がらせを受けていた。 だけど彼は信じていた、父親の無実を。

 

そして世界に変化はもう一つ。それは天上の存在、天使と悪魔の出現。それぞれ信仰と畏怖のエネルギーを糧とする彼等は、供給元の半減により不干渉の不文律を破って顕現し。悪魔はその力で超常的な事件を起こすようになり、天使は人間と協力して事件の解決にあたるようになっていた。

 

「じょ、助手役は! あなたしかいないんです!」

 

そんなある日、彼の家を訪ねてきたのは落ちこぼれ天使のペネメー(表紙)。天使における警察のような組織、グリゴリの捜査班の一員である彼女は、しかし人見知りでコミュニケーション壊滅、更には怠惰と言う事で事件解決が中々できぬ落ちこぼれ。そんな彼女は何故か春継を助手に指名し。父親の事件の再捜査を条件に、春継は助手となる。

 

 

2人で立ち向かう事になるのは、悪魔が起こした超常的な事件。悪魔は事件現場に謎を残すというルールに縛られ、その謎を解明させる事で悪魔を弱体化させるのがペネメーの仕事。ある時は地上500メートルの上空密室毒殺事件、またある時は妹である真理亜の通う学園で、数秒の間に消え失せた友人の行方を追い。その事件の裏に見えるのは滅んだはずの者の名、そして裏切り者の存在。 そんな中、数百年ぶりに復活する大悪魔アスモデウスからの、復活場所を推理して見ろと言う謎かけに失敗し。春継にかけられていた疑問を謎として解き捕らえる事には成功するも。 その埋め合わせとして彼等はとある計画に関わる事となる。

 

時間を操る悪魔の手を借り行われるのは、そもそもの始まり、ウイルス流出事件を無くしてしまおうという計画。その為に過去に飛び、だがそこで明かされるのは身近にいた真犯人。 そしてペネメーと春継は実は面識があったと言う事。

 

「前者を選びますよ。前者がいいんです。だから―――どこにもいかないでください」

 

失いたくないものを失わぬ為、もう一度過去に飛んでまた縁を結んで。その先に世界はあまり変わらなくて。だけどそれでもいい、ともう思える。つまはじき者同士一緒に歩いていける君がいる。だから何とか歩いていける、そう思えるから。

 

謎を残して解かせる推理と、つまはじき者同士の唯一無二のラブコメが絡み合っているこの作品。 推理もラブコメも楽しみたいと言う方は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 隣の部屋のダ天使に、隠しごとは通じない。 (MF文庫J) : 砂義 出雲, かるかるめ: 本