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読書感想:千歳くんはラムネ瓶のなか (4) - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、今巻の記事を書いていく前に画面の前の読者の皆様に一つお断りをさせていただきたい。どうしてもネタバレありになってしまう、我が読樹庵の感想記事であるが今巻に関してはネタバレが顕著であるかもしれない。寧ろネタバレせずに語れない。故に何も事前情報として知りたくないという画面の前の読者の皆様、今すぐにブラウザバックをお願いしたい。そして読了してから、どうかこの感想記事を開いてほしい。覚悟を持てる方は、どうかこの先も読んでほしい。
我々は、何かを忘れていないだろうか。何か目を逸らしていた事は無いであろうか。どうか一度、思い出してみてほしい。
思い出されただろうか。それは、この楽しい時間はいつか終わりを告げるという事。いつの日か、朔達が過ごす時間は過去になる。思い出の中にしまわれる日が来る。そして、彼等はチーム千歳であるからこそ、青春をしている。だが、この青春はいつか壊れ、終わってゆく。誰かが勇気を出し、踏み出した時。彼等の関係は確かに変化をするのだ。
いつかはこの時が来ると思っていた。けれど何処か安心していたのかもしれない。四巻にも渡り、違った形での青春の輝きを見た事でいつまでもこんな青春が続くと思っていたのかもしれない。
だが、あえて言おう。否、否なのだ。そのいつの日にかはいつ来るのか。それは今、今巻だ。その口火を切る勇敢なる者。それはもうお分かりであろう。二度目の表紙となった夕湖である。
チーム千歳で行った夏祭り。皆で過ごした他愛もない時間。そして皆で行くことになった、二年生、三年生合同の勉強合宿。明日夏も含め、一度きりの時間の中。
「―――好きって言えないさよならより、好きって言えたさよならのほうがまだよくない?」
揺れ惑うは夕湖の心。朔との出会いと今までを振り返り、友情と恋心の狭間で揺れる恋心。
「ないよ、まだなんにも」
その心を知らぬ朔の心は、まだ何色にも染まらず。言葉に出来ぬ、色もない心。
「朔のことが好き、大好きです。私を、あなたのトクベツにしてください」
だが、否応なく選択の時は訪れる。勇気を出し、一歩踏み出し。まずは夕湖が変化の口火を切り、朔に手を伸ばす。彼と言う月に手を伸ばす。
「わりぃ、夕湖の気持ちには応えられない。俺の心のなかには、他の女の子がいる」
「朔じゃなきゃ、やだなぁ」
だが、月はその手を取る事を選ばなかった。朔は選んだ、夕湖の想いを受け取り、手を戻させる事を。それは間違いようもない、変化の引金が引かれた瞬間。涙と共に、一つの恋が終わりを告げ、一つの関係が壊れた音が響いた瞬間。
嗚呼、正に青春だ。青春の一つの象徴である勇気だ。だが、その結果はどうだ。痛みだ。確かに彼女の心を傷つけた、地獄のような痛みだ。
青春とは、地獄だ。綺麗なだけじゃない、傷つく事もある世界だ。その世界は今、ここに現出した。もう後戻りは出来はしない。朔は、そして我々は。突き飛ばされるかのように容赦なく進まされたのだ。新たな段階に。後戻りのできぬ変革の地獄へ。
どうか画面の前の読者の皆様、シリーズファンの読者の皆様。お覚悟を決めてほしい。
いつかの時は今来る。そして、忘れられぬ変化が刻み付けられると言う事を。
千歳くんはラムネ瓶のなか (5) (ガガガ文庫 ひ 5-5) | 裕夢, raemz |本 | 通販 | Amazon