読書感想:現実でラブコメできないとだれが決めた?3

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前巻感想はこちら↓

読書感想:現実でラブコメできないとだれが決めた? (2) - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、ラブコメをするにはクラス全体の空気が必要であると言う事は、前巻を通して語られた次第であるが、画面の前の読者の皆様は覚えておいてであろうか。では「級友」も揃った。「幼馴染」も揃った。なればラブコメに足りないものは何であろうか?

 

答えは簡単。年下ヒロインもありだけど、年上ヒロインだってあり。つまりは「先輩」である。先輩ヒロインとて、耕平の望むラブコメには必要なのである。

 

おりしも、彼が通う高校においては今、生徒会長選挙の時期を迎えていた。生徒会長選挙、それはラブコメにおいて必須枠ともいえるイベントである。だが、この高校の選挙においては、信任投票ばかりとなっていた。

 

 そんな状況は勿論、耕平の望むところではない。だからこそ、生徒会長選挙も制し自らの望む舞台を作り上げる為に。彼は庶務と会計を兼任する先輩、幸(表紙左)に目を付け、彼女の推薦人として舞台を動かさんと画策する。

 

いつものようにヒロイン候補の全てを調べ上げ、全ての因果関係を整理し、頼れる仲間達と共に、いざ生徒会長選挙。

 

 ・・・だがしかし、その目論みは儚くも散ってしまう。なんと幸は、生徒会長選挙への不出馬を表明し、会長選挙は二年生の候補者、塩崎の信任投票という形になってしまう。

 

一体なぜ、全てを完璧に整えた筈なのに。だがしかし、これは現実である。決して彼等の世界は二次元の世界などではない。

 

 そして、耕平も仲間達ももう止まれない。皆で乗り掛かった舟である、だからこそ皆で。幸と塩崎に隠された秘密と謎を探っていく中、耕平は幸が心の中に秘めていた思いに近づき、触れていく。

 

 

望まれるままに、流されるままに。自分を押し殺していた幸の歪な心。

 

そんな彼女と並びたちたいと願った、塩崎の思い。

 

明かされた真実はあまりにも重く、彼一人では抱えきれぬほどに大きくて。助けたいと思ったものは、その手を零れ落ちていく。

 

「俺は、一人じゃなかった。そして、今も一人じゃないから・・・・・・俺でいられるんだ、な」

 

 けれど彼は、一人ではない。だからこそまた、その手を伸ばせる。一つのプランが潰れたのなら、いくらだって新しいプランに切り替えればよい。それが出来る力は、既に持っている。

 

己の理想を曲げる彼女に伝える、理想も意志も曲げぬ大切さと、貫き通す為の方法。足りないのなら創り出してしまえば良い。彼女が輝ける舞台を、誤魔化さずに創り出してしまえばよいのだ。

 

だが、何かワスレテハイナイダロウカ? 彼等の世界は、そこにおいては現実である。場を創り出すのは「空気」であるなら、全てをひっくり返してしまうのもまた「空気」である。

 

確かに仲間はいる、けれど全員が仲間であるわけじゃない。仲間ではない、一般生徒の大多数に彼等の青春はどう見えるだろうか。興味を抱くものだっているかもしれない、けれど夢に溺れる馬鹿どもの大騒ぎにしか見えない者だっているかもしれない。

 

 

そんな者達の意思が集まり、集団の総意として認められてしまったらどうなるのか。それこそ今巻の最後、容赦なく現実が突き付けられ突き刺してくる刃となるのだ。

 

シリーズ読者の皆様、どうか覚悟していただきたい。今巻もまた、とんでもない巻である。

 

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