読書感想:パパ活JKの弱みを握ったので、犬の散歩をお願いしてみた。

f:id:yuukimasiro:20210516114658j:plain

 

 さて、今世の中に溢れる様々なハラスメントの中に香害というものがあるという事は、画面の前の読者の皆様はご存じであろうか。気を付けたいものである。自分が気付かないうちに、いつの間にか誰かに迷惑をかけているかもしれないという事は。

 

二十九歳、いわゆるアラサー。とある会社でデザイナーとして勤務する青年、了。彼には最近、一つのお悩みがあった。それは、最近どうにも忙しくて飼い犬である元捨て犬、タクト(表紙下)の散歩に行けていないという事である。

 

「犬の散歩、よろしく。 タクトっていうんだ」

 

 が、しかし。ある日、彼は都合の良いとも言える散歩を任せられる人物と知り合う事に成功する。その名は乃亜(表紙中央)。了とタクトの住む部屋の隣に住む、ただそれだけの関係であった女子高生である。

 

いつも遭遇したら挨拶する程度だった、只のお隣さん。しかし了は彼女が所謂パパ活に精を出している所を目にしてしまい。ちょっとした罰と戒めとして、彼女に犬の散歩という罰を課す。

 

了にとっては、大人のちょっとしたお節介と世話焼きであったのかもしれない。だが、この出会いは乃亜にとって転機となる。この出会いは、世界を色付かせる鍵となるのだ。

 

片親であり保護者である母親はなかなか帰ってこなくて、「あの人」呼ばわりする程に絆は無く。過去のある一件から子供っぽい奴等が大嫌い。故に高校でも孤高、周りと壁を作ってばかり。

 

だが、タクトは可愛がっただけ愛情を返してくれる。一心に信頼の目を向けてくれる。

 

その飼い主である了は、何だかんだと自分を受け入れてくれて。ただ側にいてくれる、丁度タイプな世代の男性。今までのパパ活相手とは違う、初めての感情。

 

了がいたから出来たもの。了の姪っ子であるえみりとの世代を超えた初めての友情。無口で関わりにくかった、自分と同じように孤高だった級友、南との友情。

 

了がいたから知れたもの。南とタクトを交え交流する了を見て抱いた初めてのヤキモチ。日菜子という了の後輩と出会い知った、初めての恋敵がいると言う負けたくないと言う想い。

 

 名前を付けるには程遠く、けれど一匹を交え関わるこの関係は唯一無二。大人は怖い、大人の世界だって怖い。けれど、怖いだけじゃない。

 

「乃亜ちゃんは僕の、大切な人だ」

 

だって了は、いつだって側にいてくれた。そして自分が困ったときは助けに来てくれた。人間社会も悪くはない、怖いだけじゃないと知ったから。自分だけの「居場所」を手に入れたから。

 

ドタバタとした空気感の中に、持崎湯葉先生の十八番である独特な言葉遣いが木霊して。その芯に、温かな交流とゆっくりと育む恋と言う感情を据えているこの作品。

 

故にこの作品は、年の差ラブコメとして一つの完成形とも言える面白さを持っている。何とはなしに上手くは言えないかもしれぬ。けれど、このほっこりとする温かさが今の世界には必要なのかもしれない。

 

年の差ラブコメが好きな読者様、ドタバタなラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

パパ活JKの弱みを握ったので、犬の散歩をお願いしてみた。 (ガガガ文庫 も 4-1) | 持崎 湯葉, れい亜 |本 | 通販 | Amazon