1000分の1秒。音よりも、自身の脳が指令を下すよりも早く。極限までの速さが求められるその世界は何処か。それは「競技かるた」の世界。普通に生きていればまずお目にかかる事もないかもしれないし、関わる事もないかもしれない。けれど確かにそこに生きている人達はいる。そこに命を賭けて戦いを挑んでいる者達がいる。
出会いは小学生、いじめられていたのを助けられ、競技かるたを教えられ共に切磋琢磨する内に心の距離が近くなり、大親友となって。だが運命は残酷、両親の仕事の都合による転校により離ればなれとなってしまい。
だが、運命の女神と言うものがもし本当にいるのなら、神様は時に悪戯好きであるらしい。高校生となり、大親友同士の少年と少女は再会した。少年の名は、奏治。かるたの世界から離れ、普通に生きていた彼。そして少女の名は桃亜(表紙)。「春雷」という異名で恐れられながらも、とある事情によりかるたに臨めなくなった少女である。
転校してきた桃亜との再会、だがあの時とは違い、桃亜は年頃の女の子らしく成長していて。
けれどその内面はあの頃のまま。自分の前で躊躇いなく薄着になったり、服の中に顔を突っ込ませたり、更には回し飲みも普通にするし、プロレス技も普通にかけてくる。あの日と変わらなすぎる距離感に奏治は戸惑い、思春期故の懊悩を感じながらも再び友情を復活させて。
だが、状況は変わったと言わんばかりに、二人で入部したかるた部を風雲急の事態が襲う。それは、頂点まで登れなければ廃部と言う、非常なる宣告。
臨めない、なんて言っている場合じゃない。急遽復帰を決める桃亜。彼女だけに負担はかけられない、と自分も頂点を目指すと言う啖呵を切る奏治。
彼を襲うは周囲から襲い来る逆境。競技の世界に生きる者、誰にも期待されず、桃亜の金魚の糞的に視られ。虐げられ、押さえつけられてしまう彼の心。
けれど、逆境こそが彼の心を磨く砥石となる。誰も知らぬが内に、彼の中に燻っていた熱は燃料をくべられ業火となり、人知れず炸裂の時を待ち構える。
そして迎えた、初の競技の舞台。自分を舐めていた強敵相手に、彼の本当の力が牙を剥く。「春雷」に見いだされ、彼女を磨き、自身もまた磨き上げられた「名もなき怪物」の力が。
当然の事である。比翼は片翼にして成らず、連理は片枝にして成らず。彼は誰にも注目されぬ路傍の石ころに非ず。「春雷」の隣に並び立ち、台風の目となる最強の原石なのだから。
『必ずなってみせるっ!』
今まさに目覚め、牙を剥き。我等ここにありと傷を刻み込んだ二人。怪物たちは目の前にいるライバルへ告げる。負けるわけにはいかぬ、だからこそ倒して見せると。
男勝りな幼馴染とのいちゃいちゃなラブコメ、そして競技かるたの思いぶつかり合う、激しき格闘。
甘くて熱い。交じり合わずに並び立ち共に進む。そんな二つの柱がどんと構えているからこそ、この作品は面白いのである。
熱いスポ根ものを読みたい読者様、幼馴染ヒロインが好きな読者様にはお勧めしたい。
きっと貴方も満足できるはずである。
大親友が女の子だと思春期に困る ようこそ1000分の1秒の世界へ! (MF文庫J) | 赤福 大和, さばみぞれ |本 | 通販 | Amazon