さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は、誰か自分の知っている人の本心、引いて言うなら本当の姿と言う物をご存じであろうか。本当にその人の本質、実像を見れているであろうか。勝手なイメージから作られた虚像を押し付けたりはしていないだろうか。人と関わるうえで重要なのは、きちんとその人の実像を見る事。それが一番重要なのである。
だがしかし、この作品の主人公である遠也は物語の始まりからして、勝手なイメージから作られた虚像を押し付けられている。それは彼自身が原因、というわけではない。入学して早々、上級生に絡まれる同級生を助けたら、その上級生が外面は優等生であった為に言い分を信じてもらえず。生来の目つきの悪さも相まって、いきなりの停学処分から極悪な不良として周囲から孤立してしまったのである。
「うん。だったら怖くないよ」
そんな彼に、ひょんな切っ掛けから訪れた出会い。それは旧校舎にいた先輩、茜(表紙)。聞き上手でありきちんと自分を見てくれる彼女に受け入れてもらい、彼の心は落ち着く場所を得る。
が、しかし。彼女のアドバイスを元にクラスの一匹狼な生徒、奏との交流が出来る中。遠也は茜が二人いる、という謎の光景に行き当たる。無論双子の姉妹、という訳でもない。けれどどう見てもそっくりを超え、本人である。茜本人から明かされたのは、今の自分は認識されぬ存在であり。周囲からの期待、イメージをそっくり叶えてしまう「虚像」が今、自分の代わりに行動していると言う事実である。
それを聞いて、冷静でいられる遠也でもなく。生来の直情的な心が導くままに、一人でも何とかしようと行動を開始する。だが、その行動は空回りの方向へ行きついてしまい、周囲からの疑惑の目を招いていく。それもまた仕方のない事かもしれない。彼にはブレーン役がいるわけでもなく、彼の本来の姿は誤解されたままであり。孤立無援の状況は変わらないからこそ、その行動は困難を極めてしまう。
その最中、発表されるのは虚像の茜による相談部の創設。それが成ってしまえば、いよいよ本物の茜が認識される事は叶わない。ならばどうすればいいのか。
「さっさと虚像から目覚めろ、能無しども」
その答えは単純。お行儀よく、なんて上品な事には中指を突き立ててしまえ。悪役ならば悪役らしく、強引にでも解決してしまえばいい。創設のお知らせの壇上に強引に乗り込んで、茜を心配する親友である玲奈の本心を引き出して。一石を投じて起こした波紋を用いて、上京をひっくり返して見せる。
この作品は、未熟で青臭い。それでも不格好でも、真っ直ぐである。だからこそ直線的な青春の面白さがあると言える。
真っ直ぐな青春物語を読んでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。