読書感想:世界最速のレベルアップ

f:id:yuukimasiro:20210327175049j:plain

 

 さて、ファンタジー、もしくはRPGにおいてレベルアップという要素が絡む場合、必要な事は何であろうか。例えば非戦闘系のスキルであった場合、そのスキルを使い込む事が必要であるかもしれない。戦闘系のスキルであれば、戦闘経験の蓄積が必要であるかもしれない。

 

では上記の要素二つに共通してあるものとは何であろうか。それは「時間」。どのみち経験というものは重要であり、そこには多大な時間がかかってしまうのである。

 

 この「時間」という要素。これこそが、この作品で重要となってくる要素なのである。

 

世界中にダンジョンが出現し幾年月。冒険者という職業が成立し、社会へと受け入れられたとある日本。

 

 かの世界で、妹と二人で生きていくために高校卒業後に冒険者となった青年、凛(表紙中央)。彼には基本的スキルの他にもう一つ身に着けていたスキルがあった。その名は「ダンジョン内転移」。ユニークスキルでありながら使いどころがない、ゴミと呼んでも差し支えないスキルである。

 

が、しかし。実はこのスキルはゴミではなかった。ではなぜ勘違いされたのか。それはこの世界で常識と信じられていた事を凜も信じていたからである。

 

 それは、この世界のダンジョンは攻略すると一定数レベルが上がるが、一度攻略すると次に挑戦する為に一週間の再挑戦期間が必要となる常識。再挑戦期間はダンジョンに入れない、故に何度もダンジョンを攻略するのは容易ではない。だがしかし、凛だけは違った。彼の「ダンジョン内転移」はその常識に縛られず、ダンジョンの中に入る為のスキルであったのだ。

 

何度も、それこそ一日に何度も同じダンジョンへ挑む事が出来る。攻略する事が出来る。もうお分かりであろう、その事がどれだけ多大な恩恵となるか。

 

そんな常識外の力を凛は如何様に使うのか。悪用するのか。否、彼は純粋に力を求め、強くなるために力を使い、何度もダンジョンへと挑んでいく。ただ強くなる、そのために。

 

そんな彼に訪れるのは多くの出会い。ひょんな事から助ける事になった新人ヒーラー、由衣(表紙右)に懐かれ、自分を追放したパーティの新入り、零(表紙左)には不思議と興味を持たれ。

 

彼女達と何気ない日々を重ねながらも、凛はダンジョンの中で出会っていく。名もなき騎士やオークジェネラルを始めとする、最速で強くなっていく凛よりもはるかに強い数々の強敵達と。

 

「悪い、遅くなった」

 

戦いの中、凛は知らぬ間に近づいていく。かつて自分が憧れた背中、ヒーローとしての理想に。

 

「俺は世界最速で―――最強の座に辿り着いてみせる」

 

その胸に宿るは、まるで求道者が如き純粋なる力への探究、そして憧れへと辿り着くと言う決意。

 

正に格好いい、今まさにヒーローへとなっていく。どこまでいっても純粋に進み続ける、だからこそ格好いいのだ彼は。そして、強敵との激突がナイスなタイミングで巻き起こるからこそ、適度に緊張感が沸き上がり、物語の中、彼等の戦いの舞台へと心が引き込まれるのだ。

 

最近甘い作品ばかりで食傷気味の読者様、心燃やしたいそこの読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

世界最速のレベルアップ (角川スニーカー文庫) | 八又 ナガト, fame |本 | 通販 | Amazon