読書感想:この世界、わたしに都合がいいようです!

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 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。一つ思い返してみてほしいのであるが、異世界転生と呼ばれるジャンルにおいて、転生先はどんな境遇の作品を多く読まれてきたであろうか。転生先が身分が低く、逆境から這い上がる作品も多ければ、転生先が身分が高く。生まれた時から既に勝ち組。そんな作品も多いだろう。貴方はどちらの方の作品を読まれてきたであろうか。

 

この作品の主人公においては、後者である。だがしかし、生まれた時から全てを手に入れている、という訳でもなく唯一、絶対に許せぬポイントがあった。そのポイントを巡り展開していくのがこの作品である。

 

 とある異世界の、まだまだ歴史の浅いとある大帝国。その帝国の皇女であるアウローラ(表紙中央)。可憐な容姿に優れた魔力、臣下は美少女揃いで次期皇帝も確実。既に生まれた時から勝ち組、と言っても過言ではない彼女には一つ、悩みがあった。

 

 それは男性器、平たく言えば(自主規制)がついていない事。女尊男卑が強いこの社会において、何故そんな事を思うのか。それは彼女がかつて日本で暮らした高校生だったと言う前世を持ち、初デートを前にしてあっけなく事故で死んだと言う過去を持つからである。

 

 そんな彼、もとい彼女は「男」に戻りたい。なればどうするか。彼女は周りの人間を巻き込み、男に戻る術を探して爆走を開始するのである。

 

「わたしってなんだ、わたしって! 俺は俺だ! わたしじゃねぇ!」

 

時に臣民からのラブコールに応えた後で自分の言動を想いっきり後悔し。

 

「俺に足りないものはなんだと思う?」

 

「思慮と分別でしょうね」

 

「そうだけども! そうだけども!」

 

時に、秘書官であるメモリア(表紙右上)にやり込められて悶えたり。

 

 時には歴史に埋もれた遺跡を掘り起こしたり、学び舎を訪ねたりしたかと思えば、反乱分子が呼び出した大悪魔にまで性転換を願ってみたり。

 

「それが悪魔の言うことかッッッッッッ!!」

 

が、夢は儚く風に消え、夢破れて激怒し悶え転がる。

 

 この作品は、「男」として欠落を抱えた元少年と何処か人間としてクレイジーな奴等が織りなすコメディである。ラブが現状一切存在しない、ドタバタに容量を全振りしたと言っても過言ではないコメディである。だがしかし、だからこそ面白い。余計なものを一切省いているからこそ、むき出しの笑いの魔法が襲い掛かってくるのである。

 

何も考えず笑いたい読者様、ドタバタなコメディが好きな読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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