読書感想:元世界最強な公務員 1.帰還勇者、身分を隠してたのに新人冒険者の世話をすることになりました

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。公務員というのは非常に安定した職業であり、昨今のような情勢下においてはとても安心して目指す事の出来る職業であるが、公務員の具体的な業務というものについてはどの程度ご存じであろうか。一例としては高津カリノ先生のサーバント×サービス辺りを参考にしていただくとして、もし異世界との交流も仕事に入っていたら、貴方はそれでも就いてみたいであろうか。

 

かつて邪竜が幅を利かせ、異世界から来た勇者「ノイン」により救われた後、繋がったままとなってしまった日本との交流が始まった異世界、ラグナ・ディーン。

 

その交流の日本側の窓口となる、役所の異世界交流課に一人の青年の姿があった。彼の名は晴夏(表紙右下)。普通の学校中退の人間に見える彼こそ、異世界を救った勇者、ノイン当人である。

 

だが哀しいかな、異世界を救った武力は持って帰ってこれても、その力は現代日本では過ぎた力にしか過ぎず、それを明かせぬ以上、彼はまともな仕事に就く事などできず。それでも妹である玖音との生活を守る為、公務員となった彼。

 

そんな彼は、異世界との交流プロジェクトの一環としてこちら側にやってきた三人の少女のお世話役兼案内役として任命される。

 

異世界の小国の王女であり箍の外れた戦闘狂、エウフェミア(表紙左下)。

 

リーダー担当、貧民街の孤児院からの成り上がりを目指すリュリ(表紙左上)。

 

家族の為、年齢を偽り冒険者となった少女、マリナ(表紙右上)。

 

新人冒険者である彼女達こそ、晴夏が異世界を救った事で今の状況へと相成った者達。言わば、異世界を救った結果齎された結果なのである。

 

チャンスを得て、必死にマリナが法を犯してでもそれを掴みに行き。

 

戦闘兵器以外の自我が育たず、空っぽだったエウフェミアは体よく放逐され。

 

そしてリュリは、ノインに憧れその背を追うかのように理想を掲げる。

 

自分が戦ってきて、必死に異世界を救ったからこそこの結果は齎された。異世界で脇目も振らず戦い続けてきた彼の姿は、想いは。本人も知らぬ間に何かを異世界に刻んでいたのだ。

 

聖剣ユニベルに課された試練、妹である玖音の真実。その全てを背負う必要もないのに背負い込んで、只一人壊れる寸前まで戦い続けて。

 

「ああ、俺はただの数字じゃなく、誰かの未来と無限の可能性を救ったんだって」

 

だからこそ救えていた、彼女達という未来の可能性を。それに気付けた時、やっと彼の心は救われたのだ。ただ捨てただけだった勇者の名を、正規の手順で捨てようと思うくらいには。

 

現実と理想の隔絶に思い悩み、背負った重荷の重さにもがき。それでも皆で歩き出す。

 

そんなぴりりと辛く、硬派で痺れるかのように。重厚で読み応えのあるこの作品。

 

読み応えのあるファンタジーが好きな読者様、迷いもがき進む主人公が好きな読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

元世界最強な公務員 1.帰還勇者、身分を隠してたのに新人冒険者の世話をすることになりました (HJ文庫) | すえばし けん, キッカイキ |本 | 通販 | Amazon