読書感想:桃瀬さん家の百鬼目録

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は桃太郎や一寸法師のような御伽噺はお好きであろうか。子供のころに慣れ親しまれた御伽噺はどんなものであっただろうか。そして、もしそんな御伽噺の主人公達が我々の周りに存在するかもしれないとしたら、貴方は友達になってみたいだろうか。

 

まずこの作品を見て貴方はこう思われたのではないだろうか。何か、作者が多くないか、と。而してその思いは別に間違いという訳ではない。何故ならこの作品は、四人の作者によるシェアワールド、オムニバス形式で描かれた作品であり、諸事情あって二年くらい企画凍結の鬱き目に遭っていたところを、引き上げられ、なんやかんやで電撃文庫より出版される事になったという異色の経歴を持つ作品である。

 

では、そんな異端の作品であるこの作品は、どんな作品なのか。

 

御伽噺の英雄達が顕現した舞台である浅草。彼等の使命は、怨念と共に発生した魔物、「夷狄」の討伐。

 

が、しかし。そんな使命もどこ吹く風と一人、ボロアパートの一室で空腹により死にかける女性が一人。彼女の名は桃瀬みろく(表紙右)。かの有名な御伽噺、「桃太郎」の顕現者である。

 

顕現者である、と言ってみたが彼女はとんと役に立たぬ。それは何故か。何故ならば、彼女は桃太郎の「力」ではなく「記憶」だけを引き継いで生まれたという顕現者の中でも類を見ない落ちこぼれだから。桃太郎としての「力」はシスコンが過ぎる弟、小太郎(表紙左)に全て持っていかれてしまい出来る事は精々、夷狄を見る事ぐらいだからだ。

 

死にかけていた彼女は弟である小太郎の策略により、顕現者達を纏める謎の老人、「師匠」の元でライター見習として働く事となるみろく。

 

その中で彼女が知っていくのは、今まで知らなかった顕現者達の抱える想い、そして夷狄の中に込められた呪いにも等しき思い。

 

「主役になれなくて悔しかったんだろうね」

 

力太郎の顕現者であるルイス、彼が作り出した人形の失敗作に憑りついていた怨霊達の、何処か自分と重なる思い。

 

「すべてが満たされているってのはなァ、何もねェのと同じなンだよ」

 

ものぐさ太郎の顕現者を縛る究極の御都合主義、人として当たり前の事すら出来ないまるで呪いが如き、御伽噺の業。

 

「亀を助けてはいけません、いいですね」

 

夷狄の姫の従者が願う、たった一人の誰かへの只一つの願い。

 

まるで万華鏡のように。同じ世界でありながらも幾らでも色を変え、時に切なく、時に面白く。

 

一冊で何度も、様々な味が楽しめるのがこの作品である。

 

まだ見た事の無い作品を見てみたい読者様、怪異が好きな読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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