さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は恋愛偏差値なるものは高い方であろうか。相手の気持ちを汲んで適切な言葉を選ぶ、果たしてそれがきちんと出来ているだろうか。
とある高校、そこにとある一人の女子生徒がいた。彼女の名は夏川雫。学園一の才媛であり、数々の告白を次々と、まるで氷の刃のように冷たく切り捨ててきた少女である。
そんな彼女が、本気で恋をした相手がいた。彼の名前は小森翔太。雫が男避けの為に偽装の恋人として付き合いだした相手であり、本気の相手ではなかった筈の相手である。
だがしかし、平凡を絵に描いたかのような彼を本気で好きになった。だからこそ、本当の意味で恋人になりたいと言った。
ここで終わっていれば、この作品は甘々なラブコメで終わっていたのかもしれない。しかし雫には一つの問題があった。それは才媛な筈の彼女の弱点が、恋愛偏差値のあまりにも低い数値だったのである。
「私たちの関係は今日で終わりよ」 これだけ聞くと、画面の前の読者の皆様は振る為の言葉であると思わないだろうか。少なくとも、温かな思いから出た言葉ではないと思わないだろうか。
が、しかし。彼女の言いたかった意味は、本当の恋人になりましょうという思いだったのである。これだけ聞けば、分かりにくいにも程があるだけでありきちんと向き合えば何とかなると思われるかもしれない。
だが、それで終わらないのがこの作品である。ではここに絡まるのは何か。それは誤解と勘違いとすれ違いという、錯綜と空転を彩る為には欠かせない要素である。
両親の離婚で苗字が違う、雫の弟である健吾を巻き込み雫は翔太に想いを伝えんとばかりに勇気を出す。
が、その道を阻む少女が唐突に現れた。彼女の名は高嶺繭香。転校生であり、翔太の初恋の幼馴染である。
雫が翔太をフッたという話を聞き、雫に挫折を味わわせるという若干ゲスい目的の為に翔太の攻略を始めんとする繭香。
彼女だけが絡んでくるのならばまだ良かった。が、それどころではなかった。健吾の彼女である少女、天使が雫と健吾が浮気していると勘違いし、よりにもよってそこで出会ってしまったのが翔太だ。
もうお分かりいただけただろうか。そう、空転に次ぐ空転。誤解と勘違いとすれ違いが、何処までも凄い勢いで積み重なりあっという間に混沌に突き進んでいくのがこの作品の面白さなのである。
しかも、そのすれ違いが同じ場所で多重連鎖的に発生する。だからこそ手に負えない、制御できない。まるでブレーキの壊れた暴走特急が如き勢いで突っ走る。
だが、だからこそ面白い。そして一癖も二癖もあるヒロイン達が作品の舞台を回し引っ掻き回す。故にこそ癖が強いながらも濃い笑いがこの作品には溢れているのである。
癖の強いヒロインが好きな読者様、某ゲーマーズ！のような勘違いとすれ違いの積み重なるラブコメが好きな読者様にはお勧めしたい。
きっと貴方も満足できるはずである。
