読書感想:オーバーライト2 ――クリスマス・ウォーズの炎

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前巻感想はこちら↓

読書感想:オーバーライト ――ブリストルのゴースト - 読樹庵

 

クリスマスは戦争である、と誰かが言った。この作品の続刊である今巻でもクリスマスにおける戦争が繰り広げられる。では相争うのは何か。片や、ヨシが今まで触れてきたブーディシア達の魂であるグラフィティ。もう片方、それはヨシの過去にありその魂の根源となったもの、音楽である。

 

その始まりを連れてくるのは誰か。それこそは今巻の表紙を飾るもう一人のヒロイン、ヨシのバンドのボーカルであるネリナである。

 

急に二通のメールを送り付けてきたかと思えば、力技でねじ込んだ休みを活かしてブリストルまで押しかけてきて。いきなりブーディシアと遭遇し剣呑な空気を発生させたかと思えば、ヨシの大学寮まで押しかけて来たり。

 

何の意図があるのかも分からず振り回され、困惑するヨシ。

 

 

そんな彼は今巻で一つのチャンスを手にし、一つの大規模な事件へと遭遇する事になる。

 

チャンス、それは新進気鋭のグラフィティ嫌いのミュージシャン、ガブリエルの新プロジェクトへの参加のチャンス。事件、それは「Z」と呼称された何者かによるグラフィティの損壊事件。

 

ガブリエルは言う、ヨシの音楽の答えは自らの内ではなく外にある。一人では完成せず、別の何かと組み合わさる事により初めて完成するのだと。共に戦う以上、君は楽器であると。

 

そして、ネリナに告げられたのは衝撃的な一言。君は自分の事しか考えていない。魂が無い、と。

 

それは一体、どういう意味か。それが示す真実は只一つ。それはネリナとヨシが合わさって、初めて一つとして完成するという事。

 

彼がいなくては彼女は自分の事を信じられず、本当の意味で完成しない。だからこそ、ネリナは彼を取り戻すためにここに来た。強欲であるからこそ、全てを手に入れる為に。

 

だからこそ彼の進退をかけて繰り広げる、クリスマスの戦争。グラフィティと音楽、どちらが正しいのかと激突する両者。しかし、二つの陣営はどちらも間違えてはいない。それどころか同じなのである、その心の芯に宿った譲れぬものへの炎は。

 

確かにグラフィティは犯罪なのかもしれない。だけどそこに命を賭けている者達の矜持は砕けない。

 

「引き返せないなら、前に進みましょう。今は生きましょう。すべてを背負って、それでも明日・・・・・・変わっていくために!」

 

過去は変えれず引き返せない。だけどそれでも、炎の中からでも進んでいけば確かに変われる明日が待っている。

 

懊悩と過去、現在と過去の狭間で。思い悩みながらもまた一歩、前へ。

 

自分の心の中に自分だけのアートの芯を持つ者達が、譲れないとばかりに激突し合い本気で魂を交え合う。だからこそ、面白い。だからこそ、燃え盛るような熱が心の中を駆け抜ける。

 

前巻にも増して複雑な、そんじょそこらの作品では出せぬ面白さが炸裂している今巻。

 

前巻を楽しまれた読者様、やはり二冊合わせて楽しみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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