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読書感想:オーバーライト2 ――クリスマス・ウォーズの炎 - 読樹庵 (hatenablog.com)
インベイション、それは侵略を意味する英語である。物騒であり、少なくとも穏やかとは言えない。では一体、侵略してくるのは誰か。それは、ロンドン。イギリスの首都であり、探偵がかつて闊歩し、幾多の幽霊の噂話が彩る霧の町である。
侵略の主となる者、その名はシュガー。ギャング団「甘い歯」を従え、ロンドンから始まり無数の町をギャングと自身のグラフィティで制圧し、遂にブリストルに襲来した狂人であり、かつてアイオンを師として仰ぎながらも、突如ロンドンへと出奔し袂を分かったブーディシアの兄弟子である。
アイオンの店を爆破する事から始まり、街に溢れる無数のグラフィティを上書きし。その侵略は嵐のように、一気呵成に攻めてくる。立ち向かおうとしたララ達を容赦なく暴力で傷つけ、問答無用と言わんばかりに芸術ではなく、暴力で語り上書きしてくる。
それを黙って見ているヨシとブーディシアであるわけもない。が、しかし。ここに来て突如、ブーディシアはグラフィティが描けなくなるという謎の不調に見舞われてしまう。
その原因は何故か。ヨシがもうすぐ日本に帰ってしまうという心の焦りか。
「あたし、もう書きたくないのかもしれない」
「今のブーさんには、魂がない」
否、それは違う。彼女はシュガーのグラフィティから溢れる強烈な感情とメッセージに、足を止めてしまったのだ。彼にはある、ララにだってある。だけど、自分は? 自分は自分に何を書かせたい? 例え勝ったとして、その先に一体何がある? 見出せなくなってしまったからこそ、彼女のグラフィティは魂を失ってしまったのである。
ならば、一体何を以て彼女を救うべきか。ヨシの告白か、それだけではない。グラフィティによって失ったものは、グラフィティにしか取り戻せない。自分の中の全部を一度無くしてみた時、自分の中に残っていたのは何か。
「・・・・・・あたしは、今、好きだと思えるものを書くよ」
それは書きたいと言う欲望。アーティストとしての心。ヨシと別れ一人、様々な異国の様々な街を流離い、その街の壁ばかりを見つめ。その果てに見つけ出した、自分だけの答え。
「一緒に行けるとこまで行こうぜ、ヨシ」
彼女を見つめ、自らも心を決め。彼女を連れ出し、ヨシは日本へと旅立ち。ブーディシアも共に笑い、二人でここではない何処かへと旅立っていく。
その果てに待つ景色は、きっと私たち読者の心の中にある筈。
限界までブレーキをぶち壊しスピードを出し、アーティスト達のエゴと想いが交錯し、切なくも激しく熱い独特の面白さが一つの極限へと辿り着く今巻。
前巻を楽しまれた読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
オーバーライト3 ――ロンドン・インベイジョン (電撃文庫) | 池田 明季哉, みれあ |本 | 通販 | Amazon