読書感想:午後九時、ベランダ越しの女神先輩は僕だけのもの

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は1メートルという距離を示す単語を聞いて、何を思い浮かべるであろうか。一メートル、それは貴方にとってどんな距離か。一つ言うなれば、一メートル、それはお互いの懐に入り込むような今の世の中に沿った言葉で言うなれば、密であるような距離なのかもしれない。

 

さて、この作品の作者様であられる岩田洋季先生。この先生と言えば、護くんに女神の祝福を!シリーズや花×華シリーズ、淫らで緋色なノロイの女王シリーズなどSFから青春、ホラーに至るまで様々な作品を手掛けられている、コンスタントに作品を出版されている作者の方である。

 

だがしかし、その作品の中には明確に共通する一つの芯がある。それは、「恋」である。強いか一途か、それとも呪いで真っ赤か。様々に形は違えど、確かに溢れている感情、それこそは「恋」。そしてこの作品にも、確かに「恋」が溢れているのである。

 

一人暮らしする為にアパートに引っ越してきた、アメフラシとまで呼ばれてしまった冴えない主人公、旭。

 

彼の家とアパートを挟んで隣、僅か一メートルの距離の向こう。そこに住んでいたのは学園の女神先輩とまで呼ばれている才色兼備な先輩、夏菜子(表紙)である。

 

誰にでも温かくて優しい、全生徒の憧れとも呼べる先輩。

 

だがしかし、ひょんな事から知り合って。ベランダ越しに話す関係となった彼女が見せた顔は、何処にでもいる普通の表情豊かな女の子であった。

 

時に悪戯っぽくゲームを持ちかけて来たり。時に何故かコスプレをしてくれたり、時に不機嫌になってしまったり。

 

自分にしか見せない、年相応のその顔。何気なく過ごし積み重ねる、何でもない筈の時間。だがしかし、その時間は不意に音を立てて動き出す。

 

「旭くん、わたしはいったいどうしてキミのことが好きなんでしょうか?」

 

不意に零れたその一言、それは唐突に引金を引き恋の感情を転がしはじめ。

 

夏菜子の狂信者とも呼べる女子の手により、二人の距離は唐突に引き離されて。

 

だけど、一つだけ約束してと言ったその言葉が、まごう事無き彼の好きという感情を彼女へと届けて。

 

「―――だから、僕は先輩と付き合いたい。そういおうとしてました」

 

そして再びの窓越しで。彼女へと届けたのは、零と百華がかつて辿った道へと続くかのような宣戦布告。貴方に主導権は渡さない、そして君にも主導権は渡さない。この瞬間始まったのだ。二人だけで繰り広げる、秘密の恋の遊戯が。

 

何でもない日々を積み重ね、少しずつ、まるでぴったりと合うパズルのピースを組み合わせるかのように。一つずつ積んで組み立て、丁寧に磨いて。そんな溜息が出る程に眩しくて甘い、王道ど真ん中の「恋」がこの作品では描かれているのである。

 

溜息を吐くほどの恋が見たい読者様、王道ど真ん中のラブコメが好きな読者様にはお勧めしたい。きっと満足できるはずである。

 

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