突然ではあるが画面の前の読者の皆様、貴方はグラフィティというアートをご存じであろうか。もしくはバンクシーという画家をご存じであろうか。
グラフィティ、それは一見すれば只の落書きかもしれない。だけどそこには誰かの秘められた願いがあり、それは上書きされども誰かの心に残る願いなのである。
この作品の舞台はブリストル。そこは一見すると知名度が低い街なのかもしれない。だけどこの街は誰かにとっての聖地である街。そう、この街はバンクシーの出身地でありグラフィティの書き手に優しい、さながら一つのキャンバスのような街である。
そんな自由な街で、とある過去を抱えながら留学してきた日本人青年、ヨシ。彼が書き手不明のグラフィティの書き手を職場の先輩、ブーディシア(表紙)と共に探し始める事から始まるのがこの作品である。
何を隠そう、彼女はかつてゴーストと呼ばれ名を馳せたライターである。だがしかし、彼女には書けない事情がある。
ほんのりとしたミステリーを解いていく中、ヨシが触れるのは彼女の過去。そしてミステリーの先に繋がるのは聖地を脅かす巨大な陰謀。
「これは革命よ」
かつてブーディシアと張り合ったライター、ララは民衆を率いて声を上げる。
「ここでなら、いつだって、なにをやってもいいんだ」
もう一度楽器を構え、風の中でヨシは叫ぶ。
そう。いつだって、なにをやってもいいのである。
この作品はそんな当たり前の事実をもう一度示し、誰かの背を押すかのよう。
そんなどこか儚くも温かい光に満ちた、挫折の先に再生し新たな道を歩き出す、心に突き刺すのではなくまるで包み込むかのように温かい、一抹の感動がある作品なのである。
優しさがある作品が読みたい読者様、一味違う作品が読みたい読者様にはお勧めしたい。きっとお楽しみいただける筈である。