前巻感想はこちら↓
https://yuukimasiro.hatenablog.com/entry/2020/02/26/225424
さて、画面の前の読者の皆様に一つ問いかけをする事をお許し願いたい。戦争において、もっとも重要であるのは一体何であろうか。武装か。規模か。早さか。無論、読者の皆様一人一人重要視する答えが違う事は明白な筈なので、決まった答えは存在しない筈。しかし、この作品の世界において戦争で重要なのは、武装でもあり速さであり、規模であり。そして重要なのは補給、即ち兵站である。
反対派を悉く殺し尽くし自らの周りを忠臣のみで固めた齢十にも満たぬ女王、ニフレディル(表紙上方)。十万もの大軍を三つに分け、三方向からイントラシア州へと襲来する彼女が率いる国、リエメン。
だがしかし、十万もの大軍は全てが兵に非ず。その軍には妊婦や子供等も入り交じる、軍隊としてはとてもおかしい軍隊であった。
戦いに向かぬ者達も引き連れ他の国へと戦争を挑み。まるで最早故郷に帰るつもりはないとでも言うかのように。進むしかないというかのように。
それもその筈であった。何故ならリエメンは様々な災害により滅亡の危機に見舞われていたから。最早戦争に勝利し、新天地を得るしか道が無かったから。
「環境が人を歪めるんです。歪みを罪というのなら、罰すべきは環境だと思います」
奴隷すらも殺し略奪を繰り返し。それでも優しいに過ぎるガーディは敵軍にすら優しさを向ける。
しかし、羽妖精達の力を借りた占いという名の計算演算に支えられたガーディの策は、リエメンの兵達の希望を刈り取る程に苛烈で容赦なく振るわれる。
当然な筈だ。何故なら彼は権能が無ければ計算尽くの軍師であり、この時代においては先を往く後の大軍師であり、助けるべき対象でなければ敵である。
三方向から迫る敵へ対し、時にグランドラ王に同盟を持ち掛け、時にシンクロに頼み傭兵達へと渡りをつけ、敵を容赦なく叩き潰す。
「僕、沢山殺してしまいました」
しかし、その心は優しく脆く。自らの策が何万もの敵を殺した事を知り涙し倒れ伏す程に。
そんな彼へと、敵も味方も様々な者達が惹きつけられ、彼への思いが高まっていく。
彼の策を常に側で見つめるナロルヴァは彼への慕情に心を揺らし、お前を背負うと叫び。
グランドラ王は竜が寝そべっているようなものと警戒し、自らの娘を輿入れさせんと企み。
そして、やきもきしガーディへままならぬ想いとワガママを抱くフローリン姫を見たアンドゥイレドとシンクロは彼を姫の伴侶へと考え、その為の方策を練る。
前巻がガーディの武人としての側面を押し出した巻となるなら。今巻は異種族も敵も何もかも巻き込むガーディの大胆不敵な策が光る、軍師としての活躍が本格的に始まる巻である。
だからこそ、全てのファンタジーが好きな読者様、戦記ものが好きな読者様にはお勧めしたい。読んでみてほしい。
正に兵達と歴史の息遣い溢れる、リアルな戦争が拝める筈である。