さて、画面の前の読者の皆様にとって妖怪、あやかしと呼ばれる存在はどんな印象を抱かれる存在であろうか。例えば最近話題となった仮面ライダー響鬼で敵となる存在もあやかし、のようなものといえるかもしれない。敵となるのならばおどろおどろしい存在、しかし味方であるのならば良き隣人、頼りになる存在、であるかもしれない。
ではこの、各種SNSで人気のショートアニメを原作にした作品ではどんな描かれ方をしているのか。それは敵であり味方。怖いものであり良き友達、家族。様々な在り方をしているあやかしとの出会いと別れを描いていく中、ヨシノ(表紙中央)が幼女から大人になっていくまでを描く成長譚なのだ。
「であれば、おまえは桜の子じゃな」
AIやらロボットが人の世界に根付く科学レベルの世界の中、「魔法」と大別されるような超常の力を持つ「あやかし」達もまた存在する日本。狐の神様、ウカを祀る神社に幼女の頃に捨てられていたヨシノ。ウカに拾われ、神社の巫女であるマミコに育成される事に。
何故彼女は捨てられていたのか、それは彼女の秘めている魔力が余りにも大きすぎて、あやかしを惹きつけてしまうから。 そんな彼女の周りに集うのは、よき隣人としての善性を持つあやかし達。
呪いの西洋人形であるカトリーヌ、呪いの日本人形の楓。元幽霊、現在忍者修行中のコマリ、その師匠である烏天狗のヨイマル。そして地縛霊であるが良い地縛霊のレイ。
ある時はウカの知っている蟹を見てみたいと家出したヨシノを追いマミコが東西奔走したり。またある時はカトリーヌと楓の喧嘩を仲裁したり。更にある時は最近こっそり行動しているコマリを尾行してみたり。
幼女から小学生、そして中学生から高校生へ。少しずつ成長していくその一瞬を切り取る中。美容師になりたいという夢を抱いていたヨシノは、強大なあやかしとの激突の中で後遺症の残る重傷を負ってしまったマミコの後を継ぎたいと志し、巫女と美容師の二足の草鞋を目指すように。
だけど、巫女になると言う事はあやかしを祓え、という事。だがあやかしと共に過ごし、家族として生きてきたヨシノには酷な事。出来得る限り願いを叶えさせて成仏させる、というその在り方は、カトリーヌの魂の失踪という別れから。まだ未熟な生き方を抱えたまま、死んでしまった駄菓子屋のばあちゃんの願いに答え、初恋の先生にあげたハナミズキを探すために飛び回る中。川向こうの危ない地で、かつて巫女だったあやかしと戦う事に。
「・・・・・・ずっと、ここに居た」
圧倒的強者たる元巫女のあやかしに一撃でダウンさせられ大ピンチ。そこで目撃したのは、カトリーヌの螺子。 思い出すのは、ソメイヨシノの花言葉。彼女はどこにも行ってはいないずっとここにいた。その事実に気付き、再び立ち上がって。
「じゃあ、あやかしアラモード?」
己の在り方、そしてまだまだ続く願いを胸に。変ずるのは自分の勝負服。マミコとは違う、あやかしとの絆を紡ぎあげてきたヨシノだからこその、あやかしと共に戦う戦闘服。
「立派なレディになるからね、私」
その力で、祓い、願いを叶え。さよならとありがとうを言えて。その果てにまた、あやかし達との日常を歩いていくのである。
サヨナラの切なさの中、心温まる交流と成長の面白さがあるこの作品。彼女の成長を見届けたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
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