読書感想:壊れそうな君と、あの約束をもう一度

 

 さて、ラブコメというジャンルのヒロインには時に「幼馴染」というものが付いている訳であるが、ふと立ち止まって考えてみると、幼馴染というのは何なのであろうか? 分解して考えてみると、友達と言うのは近すぎて、でも家族と言うにはちょっと違う関係、となるのだろうか? ではそんな関係は、どうなっていくのだろうか。一昔前なら幼馴染は負けフラグであった。だが今は勝ちフラグ、とも成り得る。 その違いとは何なのだろうか?

 

 

そんな疑問は各自考えていただくとして。幼馴染とはこれから何にでもなれる関係である。他人になる事だって出来るし、家族になる事だって出来る。その答えを探し、失った者を取り戻そうと成長していくのがこの作品なのだ。

 

「ううん。置いてもらっているのは、私の方だから」

 

父親が地域で有名な書道家、自身は趣味のギターで演奏系動画の投稿やバンドサポートを行うくらいの音楽活動をしている少年、廉司。彼の家に十カ月前から居候している幼馴染、祈織(表紙)。廉司の父親と祈織の母親が元々幼馴染み、という末永い関係だが両親の事故死に孤独となり、最期の願いにより廉司の家に引き取られ。だが、どこか距離感は遠く断絶して。 このままでは駄目だ、と思うけれどその手は未だ伸ばせなかった。

 

「今こそ・・・・・・あの約束、守んなきゃだよな」

 

ずっと片想いをしていた彼女、胸にある、幼い頃に交わした小さな約束。それを守るのは今、と切っ掛けを求めるも、傷ついた彼女に迫れなくて。

 

「あたしと付き合わない?」

 

そんな中、彼に告白してくる影が。学校一の人気者のギャルであり、廉司がステージに立つほどに活動していると知っている愛華。貴方に惚れているから、と真っ直ぐに言ってくる彼女の告白を断るも、お友達から、というお願いは受けてしまって。

 

「・・・・・・何でも持ってるくせに」

 

祈織とは半年遅れのプレゼントというイベントから少しだけ近づくも、それ以上は踏み込めず。その最中、愛華が祈織に接触し。二人の話を聞いて少し誤解してしまって。その軋みがボタンの掛け違えとなり、祈織とぶつかってしまって、彼女は離れてしまう。

 

「それさえわかれば、すぐに解決できる問題じゃないかな?」

 

「自分がどうなりたいのか、相手はどうなりたいと考えているのか・・・・・・つまるところ、それが全てだろう」

 

もう手は届かない、離れた距離。一人涙する祈織、それを知らず落ち込んでいく廉司。その懊悩に光を当て、背を押すのは愛華と父親。 大切なのは何を望むか。自分も相手も、何を求めているのか。

 

それが分からない、訳はない。 少なくとも自分がどうしたいか、は分かる。ならばもう懊悩は止めて、踏み出すだけ。 交わした約束、忘れ得ぬならそれを形にしたらいい。本気でギターに向き合い、彼女の為に全てをかけて音を重ねて、曲にして。

 

「ずっと待たせて、ほんと悪かった。もう独りにしないから。寂しい思いもさせない。あの時の約束は・・・・・・これから、ちゃんと守るから」

 

想い届けて、きちんと伝えて。彼女の中、最後に残っていたものがまた温かみを持つ。断絶を越えて手を繋ぐ。約束した思いの続きが今、再び時を刻みだして。 二人の関係はまず、再生を遂げるのである。

 

繊細で緻密、痛くなる程の心情描写が切なさを持っていて、だからこそ甘さと温かさが際立っていて。だからこそこの作品は面白い、そう声を大にして言いたい。

 

涙腺に突き刺さる物語を読んでみたい人は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 壊れそうな君と、あの約束をもう一度 (MF文庫J) : 九条 蓮, ゆがー: 本