さて、レッテルというか色眼鏡、というのは勝手に張られているものであるが、気が付けば自分とは全く違った像で自分が見られているという事もあるかもしれない。そういうのは把握が必要であるかもしれないし、放っておいても問題はない、パターンであるかもしれない。しかし色眼鏡で見ずに、素の自分を見て欲しい次第ではある。
と、まぁそんな前置きは置いておいて。この作品は文字通り万年生きるヴァンパイア、アルト(表紙右)がいきなり身に覚えのない肩書で呼ばれ。否定しようとするもそれが間に合わず始まっていくお話なのである。
勇者や魔王、魔族や魔物が存在する異世界。この世界におけるヴァンパイアとは不死のアンデッドの一種。辺境の村にて、時々村に襲撃してくる魔物を倒す代わりに献血で血を補給し、引きこもり生活を続けるアルト。同族には二千年くらいあっていないけれど、自分はヴァンパイアの中では平均より少し下くらい、年上も割といる筈、と思い快適な生活を過ごす中、突如届けられたお手紙。それは魔王四天王、としての彼への招集命令。
「ずっと四天王だったではありませんか」
しかし勿論、アルトにとってはよく分からぬ話。そもそも魔王軍に入った記憶すらない。別人あての手紙か、と思ったところでやってきたのはヴァンパイアキングの娘、エレノア(表紙左)。彼女曰くどうもヴァンパイアはアルトとエレノアしか残ってないらしく。アルトはずっと前から四天王、彼の旅団もエレノアが預かっていると言う事。当然旅団なんて作った覚えすらない。しかしエレノアにせっつかれ一先ず魔王城まで行ってみることに。
「そんなことも、あったな」
出会ったのは他の四天王たち。そこで話されたのは、二百年前の勇者との戦いで魔王を助け、人類に激烈なダメージを与えたという当然知らない記憶。長く生きているせいで記憶があやふやな部分も多々あるが、そもそも勇者と戦ったと言う記憶すらない。というのを明かす事も出来ず、一先ず二年前に現れたという勇者へ関する会議に参加し、魔王城にとどまる事に。
「でも事実だから、いいでしょ?」
さて、ではここでネタバラシである。そもそもどういうことなのか、別人と言う訳ではない。単に彼に自覚がないだけである。実は魔王である、少女にしか見えぬ魔族、ロザンナがアルトの事を吹聴していた訳であるが。彼に助けられたのは事実、しかしアルトは知らぬだけ。彼からすれば偶々散歩に出た先でいじめられていた女の子を助けたくらい、でしかない。
「お前がもっと自信をつけたら、だ」
そうとも知らず。その最強ぶりにも無自覚に。一挙手一投足が注目され、何故か大聖者の候補者にされたり、勇者になっていた既知の相手、ニナと戦わずにすむ道を探したり、世界を滅ぼしかねぬ邪竜と戦ったり。時にやれやれと溜息を吐きながら、のんびりと生きる為に無自覚のままに頑張っていくのである。
無自覚な無双な面白さがあるこの作品。そういう作品が好きな読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
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