読書感想:スタァ・ミライプロジェクト 歌姫編

 

 さて、最近の歌手の方の中には顔出しをしておらず敢えて自分という存在を隠して歌われている方も多いというのは画面の前の読者の皆様もご存じであろう。そんな個性もまたいいものと言える。そんな今を時めく歌手の方々の中でも、この方が人気と言われて皆様の中でも多くが連想される方はおられるだろうし、推しと言われて即座に自分の推しの歌手を答えることのできる読者様もおられるだろう。

 

 

この作品はそんな、歌手、「歌姫」を巡る物語であり。生き残りを賭けたゲーム、のお話なのである。

 

今の世の中より少しだけ発展したVR技術が存在している、この作品世界の現代日本。ここには「女帝の声」を持つ、と語られる絶対的な「歌姫」がいた。その名もAriel。ネット上のアバターは誰もが見た事のある、しかし現実の個人としての彼女のプロフィールは徹底的に秘されている。数々のアニメやゲームのオープニング曲を担当し、代表曲のMVの再正解数は一億回以上。 そんな彼女に憧れる、ごく普通の少女、七音(表紙)。 自分も歌姫に、と憧れるも長い間両親に反対に遭い、バイトも禁止され。それでも何とかできぬか、と藻掻く彼女にはもう一人、推しがいた。その名も「神薙」。投稿速度が遅くMVもへたくそな伸び悩む歌い手。しかし七音はファン一号として、熱烈に応援していた。

 

「嘘だよね・・・・・・なんで」

 

そんなある日、唐突に舞い込んできたのは衝撃の知らせ、Arielの死。もちろん打ちのめされ原因を探る中見えてきたのは、企業は知っていたけど身内の近しい人は逆に知らなかった、という不可解な状況。更に舞い込むのは彼女が出演予定だった一夜の舞台、「少女サーカス」。それが予定通り開かれる、どころか代わりになるスタァの募集を始めた、というお知らせ。

 

「挑戦を、したいです」

 

更にそこへ神薙が応募した、という事実を知り。訳の分からぬオーディションで彼女を一人にはさせぬ、と意を決して自身もエントリー。すると命を懸けた覚悟、を認められ一次試験を突破、実力を見せる為のステージ、第二次試験へ。

 

「お帰りください、シンデレラにして不思議の国のアリスの方々」

 

しかしこれより、牙を剥く、少女サーカスの真の闇が。 まずはそろった十人、歌にて力を示すも不合格だった二名は吊るされ、現実世界にても死を迎え。残る八人は三次試験、生き残る足掻きを見せる脱出ゲームへ。

 

最初の部屋にあったのは歌姫の死体、集うは歌姫のアンチや模倣者を始めとした個性的な八人の歌姫候補。それぞれのパフォーマンスに沿って発現した異能力を鍵に、生き残るために。

 

「だから、私も頑張ることにしました」

 

協力、すると思わせて。呆気なく容易く命は散り。生き残るために自分の能力を高める為、罪を犯すようなやり方で挑んだり。

 

「そのときは、私が死にます」

 

「そのときは、私が死ぬから」

 

疑心暗鬼の中、明かされていくのは候補者たちを秘密裡に殺した犯人。デスゲームであるこのゲームに最も向いた一人。その前で、七音と神薙はお互いの思いを晒し合い。

 

「私を連れて、お逝きなさい」

 

その目の前、生きていた彼女が起き上がり、全ての真実が明かされぶつかり合う事になり。二人は思いを託され、生き延びる事となる。

 

正に凄惨、少女達の命が簡単に散る舞台で。それでも真っ直ぐな、愛が木霊するこの作品。 凄惨で美しい面白さを見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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