さて、生まれによって生き方が決められている人生、というのはラノベにおいては上流階級出身のキャラにおいてあり得る設定であるが、現実正解においてそんな人生を持っている人って今の世の中に存在しているのであろうか? 我々の知らぬ所で存在してるのかもしれないが、今の世の中的にそんな人生って色々問題にならないのだろうか。
とまぁそんな話題はともかく。この作品はそんな、いわば上流階級の子供達のお話であり。定められた人生のレールに立ち向かっていくお話なのである。
不動産系大企業を営む父、その四番目の息子である主人公、健。四男という立ち位置は世襲の面からすればよほどのことが無ければ何も関係ない、筈の枠。故に彼は父親の所有する物件にて気ままに一人暮らしを満喫していたが。突如起きたお家騒動により三人の兄がいなくなってしまい。気が付けば後継者、という事にされてしまう。
「この状況で困らない筈がありません」
そんな彼の元に婚約者としてやってきたのは、高級旅館を基幹とした食品会社を営む家の令嬢、玲奈(表紙)。どうも昔に出会っていたらしい彼女。しかし健の方には覚えがない。一先ず急な話であったし日を改めて、という事にしようとしたら、一人暮らしゆえに散らばった部屋を見て玲奈の逆鱗に触れてしまい。彼女に押し切られて同居が決定してしまう。
「健さんが朝ご飯を食べてくださいましたから」
「私も、ご一緒して構いませんか?」
「でしたら問題ありません」
学校にも転校してきた彼女と、友人達も交えて日常が始まり。カラオケに目を輝かせたり、健が朝ご飯を食べてくれた事をはにかんで喜んでくれたり。彼女が体調を崩した時、健が不器用にもお粥を作ろうとして失敗したのを、それでいいと食べてくれたり。
まるで恋人のよう、内実は婚約者。周囲には明かせぬ秘密の関係。尽くしてくれる彼女に世話を焼かれ。その日々の中、心の中に浮かんでくるのはこれでいいのか、という拭えぬ気持ち。
「ですが、私の最大の価値はやはり、天宮の娘であること、なのです」
だけどその疑問をぶつけても、玲奈は自分が受け入れている生き方だからと微笑んで。では何故、同居生活する事になったのか、玲奈の家にメリットがないのでは? と父親に聞いてみればその理由は健がふがいない、頼りないからだとあっさりと告げられ。
「家に決められた婚約者だから結婚するのではなく、自由になった玲奈に、それでも俺を選んでほしい」
振り返る、なぜ自分が下を向くようになって立ち止まってしまったかの理由。その理由を明かした玲奈はそれでも受け止めてくれて。そんな彼女に本心から自分を選んでもらう為に。 勇気を出して一歩、健は父親に無謀な提案を飲ませる。はた目から見れば大バカ者、だけど称すべき一手を。
立ち止まっていた主人公がヒロインとの出会いで前を向き立ち上がる、そんな輝きのあるこの作品。一歩ずつの成長が見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
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