読書感想:かみつら1 ~島の禁忌を犯して恋をする、俺と彼女達の話~

 

 さて、仮面と言えば多くの人が仮面ライダー、と答えられるかもしれない。他に仮面のキャラ、という事でタキシード仮面辺りを連想される読者様もおられるかもしれない。この二つのキャラに共通して言える事、それは素顔が見えないという事である。それもまた当然の事であろう。仮面と言う物は本来、素顔を隠すものでありそれこそが本懐なのだから。

 

 

という訳で、この作品の趣旨をそろそろ画面の前の読者の皆様は察していただけたのではないだろうか。この作品においては、仮面というものが重要な要素であるのである。

 

「東京って聞いたけど」

 

小説家である父親、又右衛門に連れ回され果てはアマゾンからアラスカまで。小説のネタの為に様々な所へ連れ回され、結果的にいく先々でスペクタクルに巻き込まれると言う、インディジョーンズもかくやな人生経験をしている少年、志郎。転校ばかりで疲れた彼はある日、父親に連れられ一応は東京の範疇であるものの、本土からは一日以上の距離にある、「神面島」へと引っ越してくる。

 

「私の素顔を見たことは、誰にも話していないでしょうね?」

 

 引っ越して早々、山中の泉で見かけた美しき少女。しかし翌日、転校した高校で再会したその相手、真璃(表紙)の顔は、表情に合わせて変わる謎の仮面に覆われていた。これこそが、「神面」と呼ばれる神様が宿ると言われる不思議な仮面。この島においては、年頃になると女性は全員装着し、家族以外に素顔を見せていいのは結婚相手のみという不思議な風習があったのである。

 

その掟を破れば罰により死、あるのみ。故に隠さざるを得ず。一先ずは二人だけの秘密として秘める中、真璃が又右衛門の大ファンだったことにより、期せずして仲良くなることに成功し。学校の課題の写生をこなすために島固有の原生生物を追ったりと賑やかな日々を過ごしながら。二人は少しずつ、心の距離を詰めていく。

 

「これで後戻りは出来ないね」

 

 そこでそのまま進むのであれば、この作品は少し不思議でも王道のラブコメであっただろう。だがこの作品は「彼女達」とのお話なのである。真璃の家の分家の出身であり、従妹同士である直。島の外に出たいと願う彼女が、志郎を利用しようと仮面を外し。掟破りの秘密を抱えた三角関係となってしまうのである。

 

このままでは神罰は二人分、果たしてどうすべきか。呆れたように、暮らす中で二度目の再会を迎えた、狼を従えた謎の男が忠告し。どうすればよいのか、と迷う中。島特有の祭りの中、一組の恋人達が神面外しと呼ばれる婚約の儀式を行う事を目にしたことで。真璃と志郎、二人の抱える思いがすれ違う。

 

それを選ぶのは正しいのか。直との会話の中、実感するのは志郎もまた仮面を被っていたという事。一人になった真璃が自覚するのは、志郎を仮面越しに見ていた事できちんと見ていなかった事。

 

「我が儘と言われようが、絶対曲げない」

 

ならばそこを乗り越えなくては、向き合わなくてはいけない。正解に辿り着いた志郎を褒める謎の男に送り出され、真璃の元に辿り着いた志郎は偽らざる本心を伝え。やっと二人は結ばれるのである。

 

だが、忘れてはいけない。この作品はちょっと不思議である事。結ばれた先、本当の意味での不思議が目を覚ますという事。

 

ちょっと不思議を下地に、真っ直ぐなラブコメを読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

かみつら 1 ~島の禁忌を犯して恋をする、俺と彼女達の話~ (オーバーラップ文庫) | 北条新九郎, トーチケイスケ |本 | 通販 | Amazon