読書感想:本物のカノジョにしたくなるまで、私で試していいよ。

 

 さて、時に画面の前の読者の皆様は「バチェラー」やら古くは「あいのり!」といった、恋愛リアリティー番組はお好きであろうか。あのような番組は好き嫌いが結構わかれるであろう。好き、という方もおられるかもしれないし嫌いという方もおられるであろう。 私はどちらか、と言えばどちらでもない。嫌いでも無ければ好きでもない、というより見た事もない。かのような恋愛リアリティー番組は時に醜聞、黒い噂も聞こえてくるものであるが、実際の所はどうなのであろうか。

 

 

その真実は視聴者である我々には簡単には見えてこないものである。しかしもしかしたら、我々には見えていない部分もあるのかもしれない。この作品はそんな「恋愛リアリティー番組」を題材とした、お話なのである。

 

恋愛リアリティー番組が幾多生まれ消えるを繰り返す戦国時代と突入したこの時代、社会現象を巻き起こしている番組があった。その名も「僕らの季節」。通称「ボクセツ」と呼ばれるこの番組。高校生の青春を舞台とし、幾多の高校生が青春を放棄してまでオーディションに身を投じ、選ばれた者達が運命の恋を見つけるために集うアオハルの楽園。

 

「―――今シーズン、君たちが演じる脚本だ」

 

だが、このアオハルにはウラがある。この青春は嘘である。「ボクセツ」の人気メンバーに課せられるもの、それは脚本通りの恋。だけど参加者はそれを目指す。その先には芸能界進出が約束されているから。何を隠そうこの番組は、アオハルを番組に売り渡し恋心を娯楽にする、まさに汚れたアオハルなのだ。

 

そんな人気メンバーの一人である蒼志。彼に今シーズン課されたのは、一番の人気者である春磨と、同じく人気メンバーであるエマ(表紙左)を巡って三角関係になり、その果てにエマと急接近するというもの。

 

「好きです。私を君の彼女にしてください」

 

そんな彼に、好きになって欲しいと台本を無視して迫る少女が一人。ドイツからの留学生であるカレン(表紙中央)。台本なんか知った事か、と蒼志が既に売り渡した真っ直ぐな恋心を彼にぐいぐいと向けて来て。蒼志はエマとの台本の間、揺れ動く事となる。

 

「これからは、誰の目にも触れないところで血まみれになりながら愛し合っていこうね」

 

だけど蒼志に向けられる感情は一つではない。かつて本当の恋をし、しかし恋心を売り渡してしまった相手、明日香(表紙右)。贖罪の為、明かせぬ関係に溺れる中。カレンにそれを目撃されてしまった事で、全てが始まっていく。

 

もう失った青春、死んでしまった青春を綺麗に見せつける中。まだ汚れを知らぬカレンの事を、こちら側に来させぬために。校長という名のプロデューサーに交渉を叩きつけ、更に嘘を抱え込み。それでも、と必死に、様々な感情の板挟みの中でもがいていく。 参加者の高校生が失った青春の亡霊を抱え、通り過ぎたら最後、二度と戻ってこない青春をそれでも追いかけて。

 

「わかりました―――私の青春を、あなたに売り渡します」

 

だけど蒼志は知らない。守りたいと願った彼女が、実は誰よりも嘘つきであると言う事を。

 

「―――あおくんのこと、絶対にとり返してみせるから」

 

「―――そうはさせない。たとえ、倉科さんが相手でも」

 

そして殺人鬼の手の内に囚われた子羊のような自分を巡り、新たな恋の火花が散り始めていると言う事を。

 

背筋を掴まれ心臓を刺されるような背徳感のある、まさにゾクゾクするようなこの作品。背徳ものが好きな読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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