読書感想:あおとさくら

 

 さて、画面の前の読者の皆様にまずは一つお伺いしてみよう。皆様は「青春」と聞いて何を思い浮かべられるであろうか。「青春」とはどういう事をすれば最適解となるのか。そう聞かれたのならば皆様はどう答えられるであろうか。部活に熱中してもいいし、恋に全力を出してもいい。無論学外の活動に力を使ってもいいだろう。青春の最適解というものは千差万別、普遍的な答えなど存在しないのだから。

 

 

そういう意味においてはこの作品の主人公とヒロインも、まごう事無き「青春」をしている。「あおとさくら」、さくらを春と読み替えてみれば「青春」となるのである。

 

仲の良い友達は一人くらい、クラスに馴染める訳でもなく、だがそれを別に気にもせず。とある事情から笑う事が出来ぬ少年、蒼。彼の日課は図書館通い。いつもの席で、誰に邪魔されるでもなく濫読する。そんな日常にいつものように耽溺していた。

 

「ここに座りたかったから座っただけだよ」

 

 その日々に、不意に現れるノイズ。その名は咲良(表紙)。別の高校に通う彼女は何故か、蒼と同じテーブルにつき。一度だけかと思えば何度も続き、何故か自分にちょっかいをかけてくる。気が付けば彼女と、話をしていた。自分の過去を何故かほぼ初対面である彼女に話していた。すると休日までも彼女に振り回される日々が始まったのである。

 

ある時は映画に行ったり、美術館に行ったり。別に共通の趣味でもないけれど、笑顔を出したいと言う咲良の思い付きに振り回され。それはまるでデートのように。振り回されるのはごめん被る筈だった、だけどつまらない事で意地の張り合いなんかをして。仲直りの為、お祭りの縁日に繰り出して。

 

 だけど、何故か咲良は別れ際に何処か切なげで寂しげな顔をして。明日も会えると思っていた日常が、急に蒼の手の中から失われる。その時、蒼は今までとは違い自分から駆け出していく。分からないけれど失われるのは嫌だ、と駆け出していく。

 

咲良の学校に乗り込み、初めて知る咲良の学校での素顔。彼女の親友であるみずきから告げられる、彼女の事情。今まで何も知らなかった彼女の事を知っていく。明るくって揶揄うのが好きな彼女が抱えている重いものを知っていく。

 

「気遣うとか迷惑だとか関係ないんだよ。僕がそうしたいって言ってるんだ」

 

 今まで周りに笑顔を振りまいていた彼女もまた、抱えているものがあった。自分に見せていた姿は嘘だった、のか。否。彼女から貰ったものは、過ごした時間は嘘じゃない。だからこそ今度は自分が助けたい。真っ直ぐに伝え、蒼は一歩踏み出した結果と共に手を伸ばす。今度は自分が、と歩み寄る。

 

気が付けば随分と日常が鮮やかに色付いていた。友達からも変わった、と言われるようになっていた。だがその変化がどこか心地よくて。もう手放せなくて。新しい理想と共に歩きだす。踏み出していく、みずきと仲直りした彼女と共に。

 

歩み寄って、ぶつかり合って、思い合う。 正に青春特盛全部乗せ。春と夏を過ごして少しずつ、等身大の心で風のような速さで歩いていく。

 

なんと綺麗な物語なのであろう。なんと美しい物語であろう。きっと誰もが憧れる、という文句も嘘ではないかもしれぬ。最高に純粋で瑞々しくて青春等身大。正直に言ってしまおう、久しぶりである。ラブコメを読んで泣いてしまったのは。

 

だからこそ、青春ラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

あおとさくら (GA文庫) | 伊尾微, 椎名くろ |本 | 通販 | Amazon