さて、時に画面の前の読者の皆様も、幼き日に「おままごと」で遊ばれた事はあるであろう。 おままごと、その語源は何処なのか、とふと疑問に思うがそれはこの作品には関係ないのでおいておくとして。おままごとというのはそれぞれ配役を設けてやる遊びであるが。あれは一種の演劇、ロールプレイの一種、と言えなくもないのであろうか。
とまぁそんな遊びをされた事はあったと思うが、やったとして小学校に上がる前、遅くとも中学校に入る前にはやらなくなったであろう。そんな「ままごと」が、この作品においては重要な要素。このロールプレイが背徳へと導いていくお話なのである。
「そーくんは、あたしの彼氏。でしょ？」
「ごめんな、みーちゃん」
普段はがさつで大雑把、演劇部所属の「紅姫」こと深紅（表紙）。親元を離れ、深紅の暮らすシェアハウスにて共に暮らす高校生、蒼一郎。遠縁の親戚であり幼馴染同士の二人。幼き日の呼び名は秘密の関係に戻る合図。周囲から隠した恋人同士。
「久々に恋人ごっこ、してみたくならん？」
「お、懐かしいな。やろうやろう」
と、思いきや。実はこの二人、恋人同士ですらない。二人の関係は「おままごと」。幼き日より時折繰り広げてきた「恋人ごっこ」、だったのである。
それが二人の間の繋がり、その象徴。その関係が心地よいから、気安いから。そんな関係に耽溺し、周囲には秘密で恋人同士の様にいちゃいちゃして。 だけど、肝心なところは許さずに。
「だってこれ、ただのままごとじゃん」
それもその筈、深紅には疎遠ではあるが恋人である演劇部の先輩がいる。だからこれは只のお遊び。 なら辞めてもいいのに、しかしそこに続ける「建前」を何となく見つけて。そんな中、二人の関係、お遊びに亀裂の入る出来事がやってくる。
「キスがしてみたい」
それは、キス。それも恋人同士の。 誘われたプロとしての舞台、突き付けられる未熟。それを埋める為、本当の恋を知りたいと。求められてキスをして。それは戻れぬ一歩、より深みへ嵌っていく合図だとは気づかずに。
その思いは許されぬ、だからこそこの関係を。 今まで色々なものを失ってきた、だからこそ互いだけは失いたくない。それでも恋人同士、にはなれぬ。なら元の関係、最初に結んだ家族の絆に戻ろうと。 だけどこの胸に芽生えた思いは、捨てれない。消す事が出来ない。
その根底にあるのは恋、愛。ならば愛とは何か。真っ直ぐなものか、それとも情欲か。
「あんたのことを壊しちゃうくらい、愛してあげる」
その答えを自分の中に見つけ、あくまで演技を身に着ける為、と深紅は新たな「役」に嵌り。蒼一郎もまた、己の本心を隠してそれを受け入れ、爛れた関係へ。
「だから私と二人で、罪を背負いませんか」
その関係に付随する歪さ、黒さは自覚している。その自覚が心を揺らす中、もう一つの毒が蒼一郎に迫る。もう一人の親戚、黄純が本心を隠し、ままごとという建前を突き付け。彼女もまた深淵へと誘おうとするのである。
落ちていく、堕ちていく、墜ちていく。まさにブレーキの壊れた、ノンストップな背徳へ突き進んでいくこの作品。正に背筋が震えるような面白さがある、それは間違いないのだ。
背徳ものが好きな読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
