読書感想:ベル・プペーのスパダリ婚約 ~「好みじゃない」と言われた人形姫、我慢をやめたら皇子がデレデレになった。実に愛い!~1

 

 さて、時に「綺麗なバラには棘がある」なんていう言葉があるが、実際綺麗な女性には隠された一面が、というのはラブコメにおいては往々にしてあることであろう。画面の前の読者の皆様の中にもそんな女性にひどい目にあわされた事もある方もおられるかもしれない。しかし世の中、そんな女性ばかりではないと信じたいものである。

 

 

ではこの作品のヒロイン、ではなく主人公、レティシア(表紙右)にはどんな棘があるのか、というと。 くすりとも笑わぬ、滅多な事では口を利かぬ、故にベル・プペー、「美しい人形」と呼ばれる彼女には裏の顔があった。それは圧倒的なカリスマ性と、万人を虜にする恐ろしいまでの人たらし力があったのだ。

 

「俺は、美術品として妻が欲しいわけじゃない」

 

そんな彼女の婚約者としてあてがわれたのは、帝国第二皇子のジルベール(表紙左)。皇族としては禁忌の深紅の眼を持つ呪われた子、ひっきりなしに女性問題を起こす厄介者。人形姫としての仮面の裏、彼の事を観察してみれば、意外と女性にだらしない訳ではなく。彼が通っている娼館にもついて行ってみればむしろ紳士として人気、という事が判明し。更には料理も得意、という事実も判明する中。傭兵騎士と呼ばれるならず者も多い者達の一団が娼館にやってきて。事態は混乱に陥ろうとする。

 

その裏、感じ取るのは何者かの陰謀と誰に愛されず擦り切れて全てを諦めたジルベールの心。その瞬間、レティシアの中でスイッチが切り替わる。自らの婚約者、それは自らが庇護すべき存在。魔導具により性別を変えた傭兵騎士、「氷の竜帝」としての姿を晒し無粋な輩をさっさと制圧して。

 

「これからは蕩けるほど私の愛に溺れてくれ」

 

ジルベールの心を救わんと問いかけてみれば、望まれたのはたった一つありふれた、だけど彼が受けることのできなかった愛情の証の行為。その言葉を受け、彼女は即座に決意する。彼の事を愛し守り抜かん、という事を。

 

それは正に、人形としての仮面の裏、世界を飲み込んでしまう程の愛が発露したという事。普通の人間であれば受け止めきれぬかもしれぬ。しかしジルベールは、まるで世界中の水を吸い込んでしまえそうなほどに渇いた、砂漠のような心を持っていた。 飲み込むものが飲み込めるものに出会えればどうなるのか。正に割れ鍋に綴じ蓋、比翼連理に一直線、という訳だ。

 

「よければこれからもキミの食べるものを俺だけに作らせてほしい」

 

「ハハッ、本当に可愛らしいな私の旦那様は」

 

どんどんとのめり込んでいくジルベールは、重めの独占欲をレティシアに見せて。彼女は笑ってそれを真正面から受け止めて。

 

「どうか私と一緒に死んでくれ。果ての果てまで共にあろう」

 

彼が、レティシアの事を失うのが怖いと恐れれば、彼の護衛につけている氷の竜に自分が死んだら彼を殺せ、という命令をかけて。死ぬ時は一緒だと提案して、彼もまたそれを受け入れて。

 

いつでもスイッチが入ればあっという間に二人の世界。そこに立ち塞がるのは、国を揺るがす陰謀。だが愛し合う二人にそんなちんけな陰謀なんぞ壁にもならない。 相手の為なら死神すらも蹴散らして見せる、ならば立ち塞がる事は誰にも出来ぬのだ。

 

正に愛で溺れさせて、愛でぶん殴ってくるようなこの作品。只の甘々ではない、ガツンと来る甘さがあって、叩き込まれる。故に悦い、大満足。 重すぎる愛が心地よい、そんなお話を見てみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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