読書感想:男爵無双 貴族嫌いの青年が田舎貴族に転生した件

 

 さて、毒親というジャンルは最近の世の中になって定着してきたものであるが、時に毒親と言うのはつまらぬものにこだわったりするものであろう。例えばコンプレックスの様に学歴にこだわって子供にそれを強制して来たり、家柄にこだわって勝手に人生のレールを引いて来たり。しかし学歴なんぞ社会に出てしまえば基本的に意味はなく、人類みな平等という原則の元に則れば家柄なんぞ生きるのに関係はないと思われるのだが。

 

 

と、まぁちょっと堅苦しいはじまりとなったが。この作品においてはその家柄、というのが一応重要な要素であると言うのを基礎知識として共有しておいていただきたい。では始めていこう。

 

華族である銀条家、その跡継ぎたる青年、余一。しかしこの名前、よく考えてみると余分の余と、一である。何か闇を感じる名前かもしれぬ。それもその筈、余一本人は本来の跡継ぎたる兄のスペアでしかなかったが、兄がドロップアウト、更に悪友と共に事故死した事で跡継ぎとして重責をかけられ、応える事も出来ず落ちこぼれとして愛されず。そんなある日、外出したら急に自身の存在が消えていくと言う現象に遭遇し。彼という存在は、この世界から消え去る。

 

「あなたは私達の小さな希望よ」

 

「その他人行儀な言葉遣いを直せって」

 

次に意識が目覚めた時、彼は異世界のとある王国、その衰退しつつある北部の男爵一家の息子、ルシウス(表紙右)へと転生していた。 自らの犠牲を伴わぬ高潔さを持つも豪快でいい加減な破天荒貴族な父、ローベルと、貴族の立場にあまり執着しない慈愛の塊な母、エミリーの息子として。 唯一のメイドたるマティルダにも見守られつつ、いい意味で貴族らしくない両親に真っ直ぐに愛されて。 困惑しつつも育つ中、子供達が受ける魔力鑑定の儀式で、衝撃の事実が判明する。それは魔力の源たる、基本的には一人一つ、二つ持っていれば凄い「魔核」と呼ばれるものを、ルシウスは四つ持っている「四重奏」と呼ばれる史上初の存在であると言う事を。

 

「お主が英雄としてこの国に光をもたらすことに」

 

「父さん、母さん。僕は立派な男爵になるよ」

 

訳も分からぬまま、王様より期待を込めて宝剣を下賜され。その帰り道、旧領地だった森でゴブリンの大群に襲われ、その中で守るために剣を抜いたことで。 今までは貴族嫌いな余一だった。しかし、愛情を与えられ改めて真っ直ぐに育ち、真っ直ぐな心を取り戻した事で、改めてルシウスとなり。守り抜く為、立派な男爵になる為の日々が始まる。

 

数年後、「式」と呼ばれる簡潔に言うなら使い魔を得る儀式が近づく中、自身に対抗心を燃やす侯爵令嬢、オリビア(表紙左)と再会し。 対抗心を向けられ噛みつくような態度を取られ戸惑う中。グリフォンとの契約を狙い、勝手な行動をしたオリビアを追いかけマティルダも含めて遭難し。何とか帰宅を目指す中、儀式の場の最深部で待っていた大災害級の脅威、邪竜と遭遇してしまう。

 

「必ずお前に力を与えてみせる!」

 

正に絶体絶命、そんな中でも諦めぬルシウス。それを見、奮起したオリビアは分不相応たるグリフォンとの契約に挑み。 場を制する為、己の全てを賭けて。ルシウスは邪竜との契約に挑んで。その先に待っている結果が、一つ未来への布石を刻むのである。

 

正に王道ファンタジー、真っ直ぐに心躍るこの作品。ファンタジーが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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