読書感想:平民出身の帝国将官、無能な貴族上官を蹂躙して成り上がる

 

 さて、時に画面の前の読者の皆様の中で社会人である読者の皆様は、基本的には何処かの職場に勤めていると思われるが、その職場に困った行動をする部下はおられるだろうか、もしくはムカつく上司はいるであろうか。時にぶん殴りたくなる時もあるかもしれない、しかしぶん殴ってはいけない。ぶん殴ってしまったら犯罪であるので。そんな上司にも部下にも耐えて、きっちり仕事をするのが社会人としての生き方であるのかもしれない。

 

 

そんな厄介な存在を、きっちりと法に則り合法的な方法で蹂躙していくのが、この作品の主人公、ヘーゼン(表紙中央)である。どう見ても幹部たちに囲まれた魔王、にしか見えぬ彼であるが皆様も読み進めていけばきっとお分かりいただけるであろう。彼は、文字通り魔王そのもの。 誰を敵にしても己の道を行く傑物であると。

 

千年以上の歴史を持つ異世界の帝国、ガストロ帝国。大陸最古の成熟国家であるそこは、しかし蓋を開けてみれば貴族主義の温床、内部は腐敗に塗れており。貴族主義であるからこそ、平民は冷遇される。そんな帝国の新任将官としてデビューしたヘーゼンは、成績も恣意的に操作され、中央勤務となった同期、エマ(表紙右)とは異なり。同じく同期であるレイ・ファ(表紙左上)を護衛として。辺境の最前線へと、どう見ても左遷という形で配属された。

 

 

配属された先、其処に待っていたのもまた腐敗。部下の成果をかすめ取る上官やら下の人間をいびりまくる部下、そのトップは日和見主義者というもはやどうしようもない、と言えるかもしれぬ場所。

 

「君は今、罪を犯した」

 

だがしかし。配属先の人間は誰も知らなかった。彼等が悪であるならば、彼等は未だ小物。上には上、全てを飲み込む悪がいると言う事を。 ヘーゼンは全く容赦がなかった。侮って嘲ってきた部下を一先ずオシオキして痛めつけ、毒を飲まそうとされたら反逆罪で「合法的」に処刑し、残る部下達に恐怖を植え付け。

 

「だから、君は対価を受け取るべきだ」

 

だけど、恐怖で縛るばかりではない。成果を出し実力の原石を持つ部下の、その原石をきちんと見極め、今まではもらえなかった賞賛と褒賞を以て、その働きに報い、きちんと取り立ててあげる。

 

「では、やはり重要な情報ではないのでしょう」

 

しかし難癖をつけてくる上司は一刀両断、正論と論理の穴をついて完膚なきまでに論破して。 長年対立してきた部族とは、独自に交易していた少女のヤン(表紙左下)を配下に加え停戦協定を結び、更には取引まで始め。着々と最前線の手綱を握り、配下を増やしていく。

 

何故彼はそこまで出来るのか、それは彼の中には前世の記憶、偉大な最強の魔法使いだった記憶があるから。類まれなる人生経験、そこに裏打ちされた心の芯を誰も折る事は出来ず。

 

「だが、約束しよう。半数であれば、僕は君たちを生かしてみせる」

 

そして、その言葉にはいつも偽りはない。出来る事しか口にせず、きちんと上官としての務めを果たす。上からは嫌われる存在であるかもしれない、しかし下から見ればその存在はまさに救い、と言えるかもしれぬ。迫る脅威に対し、ヘーゼンの言葉で一致団結し。彼の策を実現させる為、全員が力を尽くして。送り出された先でヘーゼンが決着をつけるのである。

 

正に愉快で痛快で爽快、ムカつく小物な悪役を徹底的に蹂躙する真っ直ぐな面白さがあるこの作品。痛快な悦に浸りたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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