読書感想:君と笑顔が見たいだけ

 

さて、時に画面の前の読者の皆様の中にも漫才、芸人というコンテンツが好きな読者様もおられるだろう。M1グランプリが好きという読者様もおられるだろう。打てば響くようなボケとツッコミ、多彩な言葉の出てくる会話劇。そんなコンテンツに笑いを貰った、という読者様もおられるかもしれない。しかし、ことラノベにおいては漫才を題材とした作品は見かけない。私とてラノベ読みの歴の中で覚えているのは片手で数えられるくらいしかない。

 

 

それは何故なのだろうか。やはりテンポ感、というのもあるのだろうか。 漫才というのはやはり喋るからこそ成立する、と言う事かもしれぬ。さて、この作品はそんな漫才、というジャンルと青春を掛け合わせた作品である。果たしてどんな面白さがあるのだろうか。

 

「愚問だ。好きだからに決まってるだろ」

 

楽しい事や明るい場所が好きで行動的、しかし何故か笑わぬミステリアスガール、しずく。そんな彼女に恋し、日々笑わせようと自分なりの笑いで笑わせようとしている少年、晴比古。しかし何度目かの玉砕か数え切れぬ程に玉砕した彼に、声をかけてきた存在が一人。「顔面の無駄遣い」と言われる学校一の奇人な先輩、結羅(表紙)。晴比古のツッコミに輝きを感じた彼女に巻き込まれ、大喜利コンテストに出場する事となり。更には彼女との仲を誤解された事で、しずくにも誤解されたままになってしまう。

 

しかし、結羅の語る思いと、生で見た漫才ライブの面白さ、熱さに惹かれたのも事実。だからこそ、しずくを笑わせる為にこの方向性で突き進むと決め、大舞台の予選に備え二人で準備を進める。

 

だが、そう現実は甘くはない。当然だ、奇跡なんてないんだから。先に夢の舞台に立っていた芸人たちから突き付けられる未熟さ、至らなさ。 全部賭ける? そんなのは当たり前だ、前提にすらならぬ。 そして全部を賭けたって、夢は届かず敗れる厳しい現実はそこにある。 それも見ないで、全力? それは子供の綺麗事に過ぎない。

 

「俺は、本気だったのか?」

 

揺らぐ足元、突き付けられる現実。 校内一の奇人と組んで、ただふざけているだけに見られて。 ・・・・・・だけどそれでいいのか? いいわけはないだろう?

 

「―――結羅の人生は間違ってなんかないって、俺が相方として証明するから」

 

 

求められるのは何? 本気か、そんなものは関係ない。本気で足りぬのならば何、ならばもっと本気を。一心不乱の本気を。 恋、なんてものは置いておけ。必要なのは熱、そして狂気、反抗心。 言い訳なんか不要、今度こそ見せつけてやるという意志。 晴比古の心という器に、本気という思いが恋の代わりに満ちて。 今度は自分が結羅を引っ張る形で立ち上がる。

 

「滲む努力さえ、笑いに変わるんだよ」

 

さぁ、立ち上がったのならばやるべきことは一つ。 無理だと嘲嗤う奴等も。レッテルを張って見てくる妹も、そして罪の意識に揺れて笑いをこらえる彼女も。今までの全部、熱も悔しさも、努力も全部笑いに変えて。見返して全員笑顔にしてしまえ。 足並み揃え向かっていく、祭りの舞台。そこに結果は待っているのだから。

 

恋も置いてきぼりにする真っ直ぐな青春、打てば響くような漫才と魅力的なキャラ達。燃えて弾けるような青春てんこ盛りなこの作品。青春の息吹に触れたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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