読書感想:なりすまし聖女様の人生逆転計画

 

 さて、なりすましと言うとオレオレ詐欺という言葉もあるが、あれが通用するのは、なりすまされた人間に長い間会っていない、くらいの条件が必要であろう。画面越し、という条件であればディープフェイクなり何なり使えば、誤魔化せる、のかもしれない。しかし実際に対面するとなれば中々に難しいのかもしれない、騙すと言うのは。特に今の世の中の様に、個人に対する情報が簡単に知れてしまう世の中では、個人になりすますというのは難しい、のかもしれない。

 

 

そしてこの作品は、題名にもある通り「なりすまし」、という行為から始まるのである。何故なりすますのか、そこに伴う理由はのんびり、だらだらと働きたくない。という割としょうもないかもしれない理由である。

 

とある半島にあるフロール王国。北部以外を海に囲まれ、北部を山地を境として敵国である帝国に面するこの国は、帝国からの侵略を迎撃している真っ最中であり。かの国の群に属する魔術師、アリシア(表紙右)。彼女は、生まれてすぐ両親に孤児院に棄てられ。魔力の成長の早さがとんでもなく、気が付けば軍に強制徴兵されて、いつも面倒な任務を一人で押し付けられて。戦勝の後、殿として残敵探索を押し付けられて。溜息をつきつつも捜索に行けば、彼女を狙いやってきた帝国の軍勢に遭遇し。多勢に無勢で狙われるも、オリジナル魔術で死を偽装し。何とか王都に帰って来ていた。

 

 

「思いついたッスよ。最ッ高に面白い方法が」

 

同じ孤児院出身である友人、マリーヌ(表紙左)の家でのんだくれて。しかし気づいたのは、死を装った事で戦死を装ってしまった事で戸籍が無くなった、という事。生活の為に稼ぐ術がない、しかし軍には戻りたくない。どうしたものかと悩む中、マリーヌはその悪知恵を巡らせて、とんでもない詐欺の計画を思いつく。それは百年に一度、国を挙げた儀式によって神の国より召喚される存在、聖女に成り代わってしまうというもの。聖女になれば宮殿で養ってもらえる、それと最後はマリーヌに脅され、アリシアは聖女を装う事に決める。

 

「肉と酒です」

 

が、しかし。召喚されたはいいものの、聖女と言うのもあまり楽な仕事ではなかった。民に声をかける必要もあるし、悩みを聞く必要もある。時にアリシア頓智気な答えが、国民に真意を深読みされて届けられたり。交信魔術でマリーヌに知恵を借りたらあまり役に立たなかったり。それでもお付きのメイドとなったローズに助けられたりしながら、何だかんだと仕事をこなしていく。

 

けれど波乱の時は待っている。本物の聖女を名乗るセレスティーナという少女の出現、疑われるようになる自分の身元。その中で判明していくのは、聖女召喚という儀式の真実。

 

「貴族中心の世界を孤児二人がひっくり返すなんて、最ッ高に面白いじゃないッスか!」

 

そんな波乱を乗り切るために必要なのは、嘘と魔法の力。共犯者たちを増やして、かと思えばマリーヌの壮大な計画に巻き込まれていく。世界を転覆させる、とんでもない計画に。

 

テンプレ的な展開とドタバタが、くすりと笑える面白さを醸し出しているこの作品。コメディで笑いたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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