読書感想:怪物中毒2

 

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読書感想:怪物中毒 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻を読まれた読者様であればこの作品の世界情勢と、官製スラムとも言える「仮面舞踏街」という街の歪さはご理解頂けていると思うが、そんな街で生きている零士や月といったルールから外されたはぐれ者達の事もご理解頂けているであろう。化け物である身体を持ちながらも、人間でありたいと、人間であろうとする彼ら。彼等を嘲笑うかのように新たな事件の発生する今巻。それは正に、人間の醜悪さを浮き彫りにしていく内容と言ってもいいのかもしれない。

 

 

「俺の常識では、金が欲しければ働くのは当たり前だが」

 

前巻、「怪異サプリ」により生まれた「雑巾絞り」により殺害された、蛍の雇い主であるオーナー。その葬儀の中、遺された妻と息子の身もふたもない醜い会話を耳にし。関わりたくないと辟易するも、新たな事件は発生する。ダークWEBに宣伝が如く拡散された「幻想サプリ」、「怪異サプリ」のその力。そちらを何ともすることは出来ず、一先ずは「雑巾絞り」の痕跡を追い蛍のかつての勤務先の跡地を訪ねる中。オーナーの古い部下であるオネエのガルーから、権利書が息子に奪われているという事を聞き。そのアジトへ乗り込んでみれば、「死人形」と呼ばれる髪の伸びる人形を題材にした「怪異」と遭遇し、激突する事となる。

 

 上役が定めたランクによれば取るに足らぬ筈の敵。だが、どうやらそうもいかなかった。能力の拡大解釈という魔術の一端により大きな力を持つその怪異を、零士の力と蛍の機転により制圧し。だが押収したスマホから見つけた手掛かりは、新たな事件の呼び水となる。

 

繋がったのは裏のオークションサイト、サプリを落札した容疑者三人。動画配信者、お笑い芸人、そして学校の後輩の三人をそれぞれ訪ね容疑者を絞っていく中。新たな怪異が目を覚ます。それはただバズるだけの最弱の怪異。しかし現代にとっては滅亡を招きかねない最悪のもの。SNSは一つのワードに埋め尽くされ、命達生徒達がそこに巻き込まれ、狂い獣へと還っていく。

 

「ま、世界でも救ってもらおうか。―――そういうのは少年少女の仕事だ、って」

 

一つ消しても終わりはしない、伝染する恐怖と怪異の根本にあるのは人に隠された怪物性。秘めていただけの、醜悪な本性。

 

「・・・・・・それだけだ、それが願いなんだ」

 

そんな事態を解決する為、零士は陰湿に笑う楢崎に賭け蛍の手助けの元、己の全力を超えた全力を用いる。たった一つ、マイナスである自分達をゼロにするもの、「人間」として認められるための権利を対価として。

 

一体どちらがより人間らしいのか、怪物と人間の境界線は崩れ往く。それでもまだ、何も終わってはいない。真の黒幕の尻尾すら掴んでいないのである。

 

前巻とは違った重さのある今巻、前巻を楽しまれた読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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