読書感想:じつは義妹でした。3 ~最近できた義理の弟の距離感がやたら近いわけ~

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:じつは義妹でした。2 ~最近できた義理の弟の距離感がやたら近いわけ~ - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻で私はこの作品、ひいてはシリーズを弾けるようなラブコメ、と言ったと思うが勿論その部分は間違ってはいない筈。しかし私は一つ、掘り下げきれぬ所があったのかもしれない。それは「家族」という感情、関係である。晶と涼太にもう心配はないのかも、と私は言ったかもしれぬ。しかし実はまだまだ心配事だらけだったのかもしれない。その「家族」、という関係と絆が掘り下げられ重要なファクターとなっていくのが今巻なのである。

 

 

「妹が兄の布団に潜り込むのって、立派な日本の文化じゃないか」

 

前巻で文化祭を見事に成功させ。そして晶からのアプローチも更に派手に、押せ押せの体勢へとシフトし。祝日に布団に潜り込んでくるといった、肉体的なアプローチに涼太の心もぐらぐらと揺れ動く中。涼太の父親である太一の提案により、連休を活かして二泊三日の温泉旅行へと家族で出かける事になる。

 

 心揺らし、非日常の予感に一抹の心配を覚えながら。その予感は現実のものとなる。よりにもよって、存続が決定した演劇部の自主的な合宿の場所と被ってしまったのである。

 

無論、晶の人見知りの克服と言う観点においては、それは望ましい事である。義母である美由貴が演劇部の面々と面通しをしたり、飲み物を賭けた卓球対決で、謙虚な部員である伊藤の虎の尾、意外な過去の強さを垣間見たり。すぐ側で成長を実感し、その輝きに目を奪われていく。

 

 でもそればかりではいられない。旅行の中で垣間見る、晶という名前の由来となった場所と、家族の思い出。太一に急な仕事が入った事で思い出す、過去の苦い旅行の思い出。今まで共有していなかった思い出を共有し、家族として晶と涼太の心は近づいていく。

 

「この物語の続き、考えてみて」

 

二人きりの秘密のデート、そこで晶から投げられた「宿題」。自分達の物語をハッピーエンドに導くにはどうすればいいのか?

 

無論、彼女には幸せになって欲しい。女の子が喜ぶのはハッピーエンド。でも、果たして自分にそんな話が書けるのか? 自分にそんな事が果たして出来るのか?

 

 

悩む中訪れた晶の思い出の場所、そこで伝えた妹になってくれた事への感謝。それは確かにある感情。だが、不注意により訪れた滑落からの遭難と言うアクシデントに見舞われ。体力の限界の中、晶の涙に触れて。夢うつつの中、記憶に残らぬ思いが見えてくる。

 

「―――その女の子が幸せになれるように、俺とこれから一緒に考えてくれないか? ハッピーエンドを迎えるまで、ずっと一緒に」

 

「あいつと付き合ったらいい」

 

 まだ心は決まらぬけれど、自分の心は中途半端だけれど。幸福な結末は思いつかぬけれど。それでも一緒に考えていきたい、二人なら見つけていけるはずだから。だが、思い出してほしい。物語は簡単だ、だが彼等の関係は難しい。晶と涼太が家族の絆にある意味縛られているように、あの兄妹もメンデルの法則に縛られている。そこから逃れようとばかりに、恋を外に向け彼女が動き出そうとしている。

 

そう、我々は忘れていたのかもしれぬ。ラブコメは一対一でもいい、だが恋敵がいた方が引き締まる事もある。もう一つの思いが動き出す本番、だからこそここからが始まり。涼太という存在が悪いお姫様に攫われぬよう、頑張らねばいけない舞台。

 

更にラブコメとして、家族モノとして思い深まる今巻。前巻を楽しまれた読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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