読書感想:仕事帰り、独身の美人上司に頼まれて3

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:仕事帰り、独身の美人上司に頼まれて2 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、ペアリングと名付けた春彦と結子の歪な関係。求めるのは子供だけ、そこに愛はいらない、という大人らしい割り切った関係、と言っていいのだろうか。しかし、前巻までをご覧になっている読者様は、春彦と結子、それぞれの中で恋心が芽生え育ち始めているのはご存じであろう。好きになってしまえば終わり、だけどもう少しだけ。そう言い訳して先延ばしして。だけどそんな、都合のいい先延ばしは長くは続かないと言うのは画面の前の読者の皆様も何となくお察しであろう。

 

 

 

「もう、始めてもいいですか?」

 

もう誘うのに緊張感もなく、自然に誘えて。だけどその裏に思いを隠して。

 

「親なんて、いつまで元気でいてくれるかわからないんだから」

 

彼女の実感のある言葉に何かを感じたりして。風邪を引いた春彦の看病に結子が家にやって来たり。家の風呂で二人で混浴したり。関係の歪さから目を逸らしながら交わしたのは、クリスマスイブに二人で、という約束を交わして。だけど目を逸らしていたものに目を向ける時、目を逸らしていた報いと言うのは確かにあって。

 

「―――もう、終わりにしなきゃね」

 

約束を破って告白してしまって、それは正しく契約違反。だからこの関係は終わり、とあっさりと関係は終わりを告げて。単なる上司と部下の関係に戻って、春になって。人事異動で別の部署になった春彦と結子の距離は、離れてしまう。

 

「そういうんじゃねぇだろ、人を好きになるってのは」

 

「それで―――本音の話は?」

 

そんな二人へ、それぞれ届けられるのは二人を慮る言葉。別れた元カノとよりを戻して結婚をするという兄貴から春彦へ、春彦に振られた鹿又から結子へ。本音をきちんと、忘れられないならそれでいいから、と。向き合う事を決め、結子は一日だけ時間をちょうだい、と求める。

 

「他の言葉は、なんもいらないです」

 

認知症グループホームにいる結子の母親との出会い、子供を求める理由を垣間見て。自分なんて面倒なだけ、という彼女はまだ言い訳しようとして。その言い訳を一つずつ、最後の一つまで取っ払って。ようやく結子の本心は、引き出される。

 

「いいんじゃないですか、そういうのは後回しでも」

 

色々抱えるものは多いけど、そんなのは後回しで。好きと言うだけじゃやっていけないくらいに抱えるものも多いけど、でも好きじゃなきゃやってけないから。 だから、何でも言って、ちゃんと聞くからと。きちんと明かし合って、当たり前の関係になって。そして当たり前の夫婦へ成長していくのである。

 

最期はベタに、だけどそれがいい最終巻。最後まで皆様も是非。

 

Amazon.co.jp: 仕事帰り、独身の美人上司に頼まれて3 (角川スニーカー文庫) : 望 公太, しの: 本