読書感想:灰色の叛逆者は黒猫と踊る 1.闘士と魔女

 

 さて、スパルタクスという名前を聞いてどこぞのバーサーカーを連想された人は多分fate脳であると仮定して。かの人物、古代ローマの剣闘士であったのだが、そもそも剣闘士という職業の内容をご存じの方はどれだけおられるだろうか。調べるならば自己責任で。まぁまぁ血生臭い、今の時代からすれば考えられぬ、まぁ非人道的とも言える内容なので。

 

 

それもまた仕方のない事、と言えるかもしれぬ。なんせ古代の時代に基本的人権などという近代日本で成立した概念がある訳でもないので。あの時代にそんな職業が存在していた、というのは確かなのである。さて何でこんな前置きになっているのか、というと。この作品における主人公、レーヴェ(表紙右)もまた似たような境遇、と言えるかもしれぬのだ。

 

「シケたツラしてんじゃねぇよ、勝者」

 

とある世界の国、レムディプス共和国。かの国の歴史は人と獣の争いの中で綴られてきた。互いに進化を続け終わらぬ、まるで血を吐き続けながら走るマラソンが如き戦いの歴史。その歴史に疲れた人々は、人間と魔獣を戦わせる闘技場という新たな娯楽を創り出し。いつの間にかそのシステムは、経済の源泉となり背徳的な成長を続けている。

 

そんな場所に、自ら門戸を叩きやってきた見習い闘士達。数年の間に八割は死ぬ、まさに命がけながら権利も保証されぬこの世界で。レーヴェは見習い闘士のトップとして戦い続けている。

 

そんなある日、闘技場を経営する貴族から持ち込まれたのは、見習い卒業試験のお知らせ。次席である親友、ソフィーネと共に挑まんとする中、相手として出されたのはミィカ(表紙左)という少女。

 

「・・・・・・君と同じだよ、ミィカ」

 

彼女の正体、それは使い魔を従え幾度となく戦乱の引金となった魔女、それだけに非ず。重ねて、獣と会話のできる「灰色」と呼ばれる人種であると言う事。正に排斥される要素の組み合わせ。だが、実はレーヴェも同じく「灰色」であり。まるで、仲間を守りたいと言うかのように純粋な衝動が巻き起こり。ミィカを殺すのではなく、彼女を守り抜く事に決める。

 

しかし、忘れてはいけぬ。彼は強力な力を持てど、只の一人。何の立場もないどころか、立場的には最底辺。そして決して最強に非ず、上には上がいる。傷つけ、斬り飛ばされようとかまわないと。自分が彼女を監視する、と宣言し。仲間達と共に親交を深める彼。しかしまだ知らない。裏で何やら大きな計画が動いており、注目されていると言う事。そして、身近に裏切り者がいるという事。

 

「一緒に、生きて欲しい」

 

だけど、それでも。共に生きていきたいから、と必死に可能性を手繰り寄せようとする。己に出来る事を全力で為していくのだ。

 

割と重めな世界観の中、切なる感情が木霊しているこの作品。独特な熱さを楽しんでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。