読書感想:Bullets

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様は世界そのものをつまらないと思った事はあるであろうか。世界がつまらなくて、色の無い灰色の世界のように見えたことはあるであろうか。ある人もいるかもしれないし、無い人もいるかもしれない。ではそんなつまらない世界を変えるには、何が必要だと思われるであろうか。

 

 

それは小さな一歩であってもいいし、小さな切っ掛けの行動でもいい。だがその答えとして、一発の銃弾をあげられる読者様はどれだけおられるだろうか。普通の人では持ちえない、非日常的な力。だがもしそんな力を得てしまったら、皆様はどう使われるだろうか。この作品はつまりそんな作品なのである。何処か非日常的な力を手に入れてしまった子供達の、お話なのである。

 

「踊って、生きていきます」

 

家庭環境が崩壊気味、両親の事は嫌い。世界の何もかもが詰まらない。学校においては問題児的な扱いを受けている少女、ルイ(表紙)。それでもいい、と人といる時は周囲に合わせ、けれど一人の時間が一番好きで。そんな彼女はある日、夜の歩道橋で、傘も差さず雨の中。一人の少年と出逢う。

 

「あんた、こんな大雨の中で何やってるんだ」

 

その名はリョウマ。この街に引っ越してきたばかりで迷子になりかけていた彼の事を助け、何気なく名前を教え合い。それで付き合いは終わると思っていたら、終わらなかった。合縁奇縁とでも言うかのように、夜の街中で出会う事が増えて来て。気が付けば夜の街の中、別にグレているとまではいかぬでも、二人で何気ない行動をし。場末のスナックを経営する彼の母親と出会い、昔のダンスを教えてもらったり。気が付けば彼の事が日常へと入り込んでくる中、彼の側に居る事で息苦しさが緩和されていく。まるで彼の隣に安らぎを見出したかのように。

 

 

彼が語る、≪世界の最深部》なる、あいまいで不確かな物への思い。その思いに触れる中、自分もそれを見てみたいと願いだしていく。だが、そんな日々をある日、非日常からやってきたアイテムが壊していく。スナックのお客であるヤクザが遺していった実弾銃。恐怖よりも好奇心が勝り、返さずそれを自分達の手に収めた事で、スナックがお礼参りを受け、危害を加えられるリョウマを守る為、ルイはその引き金を引いてしまう。

 

そうなってしまえば、逃げるしかない。追われる身となったルイとリョウマは、リョウマが見つけた「世界の最深部」との別名がある、伊豆の恋人岬を目指し逃げていく。

 

伊豆で過ごす、優しい時間。それは優しい、一時の平穏。だがそれは長くは続かなかった。子供の予想を超えて大人の執念は強いもの。伊豆にまで追いかけてきたヤクザにより、二人は追い詰められてしまう。

 

「俺にとっての《世界の最深部》は、ずっとルイだったよ」

 

その窮地の中、リョウマはルイを先に進めるために全てを引き受け。最初から見つけていた答えをルイに託し、希望を押し付け。ヤクザを道連れに海へと消える。

 

それはバッドエンドか、ビターエンドか。否、どうも神様というのは時に気紛れに優しいらしい。少しの間を開け、また始まるのである。二人の新しい物語が。

 

どこか灰色で切ない、まさに歌のような面白さのある何かを語りかけてくるこの作品。何かを感じ取ってみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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